13.病巣


「見てください寄ってくらはい! そこのあなた、疲労回復、滋養強壮にポーションはいかがですかぁ!? 錬金術師アイシャの温もりポーション、味もクオリティも最高で、それでいて値段も破格ですよおぉ!」


 さすが商売人のアイシャだ。大人しそうな見た目と反して声がとても響き渡るので驚いた。


 金欠ということもあって、俺たちはまず食事代を稼ぐべくエスカディアの町中で行商を始めたわけなんだが……今のところ誰にも見向きもされなかった。


 うーん、どうしてだろう? 味は改善できたわけだし、彼女のポーションは元々信じられないくらい効果が高いんだがなあ。錬金術師としての能力で彼女の右に出る者はいないんじゃないかと思えるレベルだから、少しでも味わってもらえたらどんどん客が集まってくるはず。


 というかそれは普通の町であればの話で、ここの雰囲気だといくら売り方を変えたところで改善は難しそうだとも思えてきた。町を歩いてる人は結構見かけるんだが、例外なくんだ。


 何かに怯えた様子で周囲の様子を窺う白髪交じりの男、どんよりとした面持ちでうつむいたままの若い女、まばたきもせず鋭い視線を宙に浮かべる少年……とにかくどこを切り取ってみても不穏な空気を醸し出していて、綺麗で明るい雰囲気の街並みとはあまりにも対照的だった。


「うぅ……ラフェルさん、ルアンさん、なんだか私たちって全然歓迎されてないみたいですね……」


「ああ……でも、歓迎してないのは俺たちに対してだけってわけでもなさそうだが」


「俺もラフェルの言う通りだと思う。どいつもこいつもいきり立ってて歓迎するような余裕なんてまったくねえ感じがするぜ。あの門番みたいに」


 ルアンの言う通りで、病気のようなものが町全体に蔓延してるかのような、酷く淀んだ空気を感じる。これは絶対に何かあるな。さっきから回復術師としての血が騒いでるのがいい証拠だ。


「とりあえずギルド協会で仕事を探すか」


「そうですねっ」


「だなっ」


 この町にもあるはずだからな。ポーション屋が上手くいきそうにないしお金を稼ぐためでもあるが、俺としては町の鏡ともいっていい様々な人が集まるギルド協会で、この不気味な町の病巣がどこにあるのかを探る狙いもあったんだ……。




 ◇◇◇




「「「「――はあ……」」」」


 ちょうどその頃、エスカディアの町の城門付近でクラークたちの溜息が綺麗に重なっていた。彼らもまたパルメイラスの都をあとにしてここへやってきたところだった。


「クソボケがあぁっ! あの虫けら門番ども、町に入るのにいちいちギルドカードを見せろとか、感じ悪すぎだろうが!」


「だね……。しかも、『お前らのギルド、全体の冒険者のランクが低いのによくこれでAランクまで上げられたなあ』だって。そんなの余計すぎるお世話よね……」


「はい。まったくもって僕もクラークさんとエアルさんに同感ですねえ。まあ弱い犬ほどよく吠えるといいますから……」


「んー……そうは言うけどさ、実際あの門番たちの言う通りじゃないのかい?」


「「「へっ……?」」」


 カタリナの冷めた発言によって一層気まずい空気になる中、クラークの顔が見る見る赤くなっていく。


「カ、カタリナ、おめーなあ! ちょっとばっかし胸が大きいからって調子こいて――」


「――クラーク!」


「いや、止めるなエアル! 言わせてくれ!」


「クラークさん!」


「いや、だからケイン、おめえも止めるなっての! ここで言わなきゃ男が廃るし俺はもう我慢できねえ――」


「「――あれをっ!」」


「……へ?」


 エアルとケインに促される形でクラークが見たもの、それはかつて自分のギルドに所属していた回復術師のラフェルと見知らぬ者たちだった。


「ラ、ラフェルじゃねえか! 間違いねえ……あいつがなんでこんなところにいやがるんだ……!?」


「しかも仲間っぽいのがいる!」


「おおっ……可愛い子たちですねえ。ラフェルさんには全然相応しくありませんし、普通に援助交際といったところでしょうか。そんなに金があるとは思いませんでしたが……」


「はあ? アホかよケイン! あんなキモオタでゴミカスの回復術師なんざ、女の子からしたら大金貰ってもお断りだろうが!」


「ふーん……あれがあんたらの追い出したラフェルっていうやつなのかい。あたい思ったんだけど、根暗でもモテる理由があるならさ、以前言ってたように割れたグラスとか酔いとか回復できるからじゃないの?」


「「「っ!?」」」


 カタリナの言葉を耳にした途端、見る見る青ざめるクラークたち。


「ま、まあ、そういうちょっと変わった回復能力があるくらいでよ、ぜんっぜん大したことねえよ、あんなゴミカスッ!」


「そ、そうよ。今思い出しただけでも吐き気がするくらい回復術にのめり込んでてキモいやつだったし、あの子たちがあいつに同行する理由なんてまったく想像できないくらいよっ!」


「まったくです……。僕の予想だと、自分以外に治せない病人の家族を人質にしてるとか、あの子たちの弱みを握るような卑劣なやり方で脅してるんでしょう……!」


「あらそう。ところであの人、もうどこかに行っちゃうみたいだけどどうするのさ?」


「「「あっ……!」」」


 はっとした顔になるクラーク、エアル、ケインの三人。それからカタリナを含め、急ぎ足でラフェルたちのあとを追いかけるのだった……。

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