12.強がり
翌日のまだ薄暗いうちから俺たちは王都パルメイラスを発った。馬で屋台を引かせながら次に目指したのは、最近新しくできたばかりのエスカディアっていう町だ。
そこは都からかなり北上したところにあって、なおかつS級ギルドが作った町ってことで興味をそそられた格好なんだ。
できてからまだ一月くらいしか経ってないっていうから、さすがに規模は小さいんだろうなあ。周囲の景色が一面草原だったのがどんどん荒れ地になっていって酔いそうだったが、回復術でカバーしたので平気だった。
「――あ、あれは……」
「しゅ、しゅごいでしゅうぅ」
「す、すげー……」
太陽が真上に到達してからしばらくして見えてきたのは、荒野の中で蜃気楼のように浮かび上がってきた城壁で、王都を凌ぐんじゃないかと思えるほどに広大な町を囲んでいるのがわかった。あれがエスカディアの町なのか……。
作り立ての町だっていうからてっきり村みたいなものをイメージしてたが、まさかこれほどの規模とはな……。
おいおい、一体どれだけ金があるのかと。俺は元所属ギルドの【聖なる息吹】をA級まで上げた経験を持ってるが、それでも大きめの宿舎を都内に一つ建てるくらいで精一杯だった。ここまでくると割りと元から金持ちっていうパターンなのかもしれないな。
「――おいそこ、止まれ!」
「「「えっ……?」」」
俺たちは中に入ろうとしたが、城門付近で三人の男に囲まれてしまった。強面だが身なりもしっかりしてるし門番っぽい。
「俺たちは門番だ。ギルドカードを見せろ!」
「今すぐな!」
「じゃなきゃこの中には入れないぞ!」
「「「……」」」
俺たちは驚いた顔を見合わせる。彼らが門番なのはこれではっきりしたが、国境を越えるとかならともかく町に入るのにギルドカードなんていちいち見せる必要があるんだろうか。
「おいコラ……早く見せろっつってんだろうがよ!」
「……」
俺は男の一人に胸ぐらを掴まれて凄まれてしまったが、あまりにも迫力がなかったので健康面のほうが気になった。顔色が土色っぽいので酒の飲みすぎで腎臓あたりを悪くしてるのかもしれない。
「ちょっと、ラフェルさんを放してくださいよぉっ!」
「お、こいつ可愛くね?」
「俺の彼女になるなら放してやるぜ?」
「俺も俺も!」
「「「へへっ……」」」
アイシャが後ろで騒いでも門番の連中は舐め腐った態度を取っていたが、ルアンが激昂した様子で間に入った途端に状況は一転した。
「てめえら、盗賊かなんかか!? 今すぐラフェルを放しやがれ!」
「「「ひっ……?」」」
彼女の迫力に対して、俺を掴んでいた男を筆頭に青ざめつつ後ずさりし始めた。一見ただの小柄な少女だが中身は立派な拳聖だからな。見た目と乖離する強者のオーラに相手は動揺するはずだ。しかも今は右手も元に戻ってるから尚更。
「まあいいじゃないか、ルアン。ギルドカードくらい見せてやろう」
「ラ、ラフェル……?」
「ラフェルさん?」
俺はルアンとアイシャの二人をすぐ近くまで呼び寄せてささやく。
「気絶させると一瞬で楽しみが終わってしまうけど、正常な状態ならカードを見せて反応を楽しめるだろ?」
「「なるほど……」」
というわけで俺たちのギルドカードを見せてやると、門番たちはいかにも強がった様子で薄笑いを浮かべてみせた。
「ふ、ふん。まあまあじゃねえか。俺たちからしてみたら雑魚寄りだが」
「え、S級ねえ。さぞかし時間をかけて依頼をこなしたんだろうなあ」
「それによ、なんだよこのギルド、しょぼ……って、け、拳聖って、もしかしてあの拳聖なのか……?」
「「マ、マジでっ……!?」」
まあはっきりとルアンのジョブ欄に書かれちゃってるし、ルアンもそれに見合ったオーラを放ってるからな。こいつら見てて可哀想になるくらい震えあがってる。
「ま、まあ、こ、こんなガキでもなれるくらいだからよ、巷でいわれてるほどのジョブじゃねえんだろっ!」
「あぁ、きき、きっとそうだって!」
「そ、そうに違いねえっ! こいつが拳聖なら俺は神様にだってなってみせるぜー!」
「「「ナハハッ!」」」
「……」
これだけ証拠があるのに、どうしたって他人を認めようとしない、排他的でギスギスした空気をこの連中からこれでもかと感じるな。どう考えてもまともな町――ギルド――じゃなさそうだが、入口からこれなら町の中はどれだけ酷いのかと今から楽しみになってきた……。
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