11.ほとぼり
名前:ルアン
年齢:15
性別:女
ジョブ:拳聖
冒険者ランク:A
所属ギルド:【悠久の風】
ギルドランク:F
あれから俺たちはギルド協会へ戻り、新しいギルドメンバーを加えたところだった。
「A級冒険者だったんだな、ルアンは」
「凄いですねぇ」
「へへっ。俺、依頼を受けるのは好きだったからな。修練にばっかり時間使ってたけど……」
ルアンの台詞は、拳聖というジョブがいかに凄いかを物語っている。冒険者としてあまり活動してないのにここまでやれるってことは、どんな依頼を受けても失敗しなかったってことだろう。
ちなみに、盗賊としてルアンが出した例の魔鉱石の依頼については、問題が大きくなる前にとキャンセルさせておいた。といっても、石が重すぎたせいか達成できたのは俺たち以外に今のところいないようだが。
ただ、こうした旨味のある依頼を一方的にキャンセルした場合、詐欺なんじゃないかと悪い噂が流れてあっという間に広まることもあるから要注意だ。
実際相当に注目されてる依頼だったらしく、キャンセルのあとに犯人探しをしているのかその貼り紙があった場所で、ちらほらと疑いの眼差しをこっちのほうにぶつける者たちがいた。依頼の受付前に並んでたからそりゃな。あそこに並んでたやつの誰かが犯人だとかそういうことを言い合ってるんだろう。
「ラフェル、アイシャ、ごめん。俺のせいで居心地を悪くさせちゃって……」
「いいんだ、ルアン。大事なのはこれからだからな。なあ、アイシャ」
「そうですよ、ラフェルさんは器がどでかい方なので心配ご無用ですっ!」
「……いやいや、俺だって怒るときは怒るけどなあ」
ギルドマスターとして威厳を見せることも忘れてはいけない。
「さ、さすが俺の旦那だぜっ……!」
「あー、私のですよぉ!?」
「……」
あまり効果はなかったようだ。さて、話題を変える意味でもそろそろ次の依頼を受けないとな……って、そうだ、今は不穏な空気が冒険者たちの一部で漂ってるが、この際色んな意味でチェンジすればすんなり解決できるんじゃないか。
「そうだ、アイシャ、ルアン。ほとぼりが冷めるまで場所を変えて依頼を受けようか」
「あっ……! それいいですね、いかにも旅団ギルドっぽくて!」
「りょ、旅団ギルド……?」
ルアンが唖然とするのも無理はない。大体は物騒なほうの旅団をイメージするだろうからな。アイシャにとっては行商したいからってのもあるんだろうが旅のイメージしかなさそうだ。それでも究極のジョブの一つともいわれる拳聖が加わったんだし、本来の意味のほうに着実に近づいてるような気はする……。
◇◇◇
「は、はあぁっ……!? い、依頼がキャ……キャンセルされただとおぉっ……!?」
「はい。誠に申し訳ございません……」
ギルド協会、依頼を担当する受付嬢の前で膝から崩れ落ちるクラーク。
「「「はぁ……」」」
メンバーの物憂げな視線が、荷車に山と積まれた魔鉱石(薄紅)に降り注がれる。クラークたちは死ぬような思いでここまで運んできただけあって、それが無駄になったとわかり一様に酷く落ち込んでいたのだ。
「なんなのこれぇ、最悪じゃん……」
「ほ、本当にふざけないでくださいよ……。一体どこのどいつがキャンセルなんてしやがったんですかね!?」
「それは守秘義務がありますので、どうぞご理解ください……」
「……悪いけどさあ、あたい、このギルドがA級っていうのが信じられなくなってきたよ。あまりにも間が抜けてるし……」
「「「……」」」
新人のカタリナにダメ出しされ、項垂れるクラークたち。
「な……なんで俺たちがこんな目に遭うんだ……ちきしょおおおおぉぉぉっ!」
狂ったように叫びながら床を殴り始めたクラークに対し、周りから次々と好奇の視線が浴びせられる。
「見ろよあいつ、昨日ゲロ吐いてたやつじゃね?」
「今日はゲロじゃなくて愚痴を吐いてるってわけか」
「あんな惨めなギルドにだけは入りたくねえよなあ」
「「「アハハッ!」」」
「ば、場所変えましょ、クラーク。このままじゃあたしたち言われ放題よ」
「クラークさん、ほとぼりが冷めるまで違う場所に行ったほうが……」
「はっ、もう勝手にしたらいいさ」
「うぐぐ……カタリナ、おめえは生意気すぎ――ぐえっ……き、気分がすげー悪くなってきやがった。また吐きそう……おげえぇぇっ!」
「「「ひえっ……!?」」」
こうして、二日連続でギルド【聖なる息吹】の痛々しい姿が人目に晒されることになるのであった……。
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