7.初体験
「ぜぇ、ぜぇ……だ、ダメだ、重くて全然進まねえ……」
「こ、こんなの運べるかよ、畜生……」
「半分くらい置いていきましょ、もう……」
「「……」」
周りの冒険者たちが荷車に積まれた魔鉱石(薄紅)を運ぶのに四苦八苦する中、俺とアイシャは涼しい顔でそれぞれ石を100個ずつ運ぶことができていた。
「あの、ラフェルさん、どうやって回復術で軽くしてるんですか?」
「ああ、ちょっとしたコツがあってな……」
俺は荷物を引きつつ、不思議そうにしてるアイシャに説明してやった。
「当然だけど、回復術で重いものを軽くすることはできないんだよ。じゃあなんで俺たちだけ軽々と運べてるのかっていうと、重さはそのままで、荷車を引く際にかかる身体への負担をそのたびに回復術で軽減してるからなんだ。それによって本当は重いのに軽く感じるっていう錯覚が起こり、プラスの連鎖作用でこうしてスムーズに運べる格好になる」
「よ、よくわかりませんけど、とにかく凄いでしゅ……!」
「あはは」
割りと簡単な回復術の応用なんだけどな、アイシャには偉大だと感じたらしい。
しばらく経つと、もう周りで石を運んでるのは俺たちだけになってしまった。それにしても、この辺の道は切り立った岩壁に囲まれてて狭い上に視界も悪い。これでさらに重い石をゆっくり運んでる状況だったらそれこそ疲労困憊で隙だらけになってしまうな――
「――お前たち、待ちやがれ……」
「……」
尋常じゃなく強い殺気を感じたと思ったら、布で目元以外を隠した小柄な人物が俺たちの前に立ち塞がった。身なり的に盗賊っぽいし武器も携帯してない様子だが、漂う空気から察するに相当の強者なのがわかる。これは要注意だ……。
「アイシャ、ここは俺に任せてくれ」
「ひゃ、ひゃいっ……」
アイシャもただならぬ空気を感じてるらしく声が上擦ってる。
「もしかして魔鉱石の依頼を提出したのはお前か?」
「そうだ。罠だとわかってるなら有り金を全部ここに置いていけ。そうすれば何もしねえからよ……」
「残念だがそうはいかない」
「ふん……よっぽど打ちのめされたいようだなあぁっ!」
「はっ……!?」
盗賊が飛び掛かってきたわけだが、俺が予測していた動きよりずっと速いものだった。それに拳の繰り出すスピードが尋常じゃない。
「ラ、ラフェルさん!?」
「オラオラッ! さっきまでの威勢はどうしたあぁっ!?」
「ぐぐぐっ……!」
敵のスピードについていけないゆえに俺は一方的に殴られ、そのたびに回復術で凌ごうとするもののそれが追いつかないレベルで痛みを感じていた。こんなのは今までの人生で初めてのことだ。
「こ、このままやられてたまるものか……」
それでも気持ちが折れたら最後だと思い、俺は盗賊の繰り出す攻撃に対して徐々に目を慣らしていく。よし、回復が追い付いてきたところで今まで食らった分のダメージを回復してやる。やつの体に。
「がはっ……!?」
さすがに効いたらしく盗賊の攻撃が一時的にストップしたが、それでも倒れる気配もなく向かってきたから大したものだ。
「な、何をやりやがった、お前えぇっ……!」
「今までの分を返しただけだ。こっちも知りたいことがある」
「何……?」
「何故右手を使わない?」
「っ!?」
やつの目が驚愕で見開かれるのがわかる。というか、本当になんでやつが攻撃中に右の拳を頑なに使わないのか不思議だ。手を抜いてるのか? もしそれを使われていたら俺はとっくにやられていたかもしれないのに。
「このままだと確実に負けるぞ。右の拳を使わないならな。拳聖」
「くっ……ふ、ふざけんなあああぁぁっ!」
どうやら図星だったらしい。やつの目が一層見開かれた直後に俺の体は右の拳による超速の一撃を食らい、岩肌に背中から激突した。
「ぐはっ……!」
視界が眩む。回復術では到底カバーできないほどの凄まじい威力だった。さすが拳聖……。
「お、お願いでしゅ、もうやめてください! お金なら出しましゅからあぁっ!」
意識も朦朧とする中、アイシャが俺の前に庇うように立つのが見える。
「い、いや……アイシャ、大丈夫、だ……」
「何が大丈夫なもんでしゅかあ! こんなにボロボロらのにっ!」
「あれを見ろ」
「ふぇっ……?」
俺が指差した方向では盗賊が苦し気にうずくまり、右の拳を抱えているところだった。あの様子だと致命的な故障を抱えていたっぽいな。
「というか、あいつは今まで限界を超えた状態で戦ってて、俺にやったあの一撃が最後の力を振り絞ったものだったんだ」
「……そ、そうなんですねぇ……」
さて、そろそろ最後の仕上げといくか……。
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