6.仕事始め
「――ぎゅー……」
「う、うぅ……はっ!?」
気が付くと、俺はベッドの上でアイシャに抱き付かれていた。
「お、おいアイシャ、起きろ!」
「むにゃ……あ、ラフェルしゃん……おはようでしゅうぅ……」
「おはよう……じゃないっ! ベッドは二つあるのになんで一緒に寝てるんだよ!」
「あ……! ごめんなさあい。私、寝相が悪くって……」
「なるほどなあ……って、ベッドの間隔めっちゃ空いてるのにいくらなんでもアイシャの寝相悪すぎだろっ!」
「えへへ……」
こうして、俺は早朝から取り乱しつつ起きる羽目となってしまった。20歳にしてはガキ臭いと思われるかもしれないが、回復術オタクの俺としては情事というのはなるべく避けなくてはならないことの一つで、心を激しく乱されるので回復術がブレブレになって上手くいかなくなるんだ。
「さあ、いよいよ【悠久の風】のギルドとしての仕事始めだ」
「ですねっ!」
俺とアイシャは安ホテルで朝食後、早速依頼を受けるべくギルド協会へ向かう。まだ早朝っていう時間帯の影響もあってか人の数は昨日より少なめだったものの、それでも協会は俺たちを含む人々の熱気で溢れていた。協会の入り口近くが依頼の貼り紙の展示スペースってことで到着して早々、F級の依頼を物色し始める。
「ラフェルさんっ、この依頼なんてどうですか? F級で銀貨2枚、銅貨7枚って結構多いですよね。あ、あの依頼とかもいいですよっ!」
「アイシャ……依頼は逃げないんだからじっくり選ぼう」
「はあい」
アイシャが目についたものを次々と薦めてくるもんだからついやりたくなるが、俺としてはなるべくじっくり選びたいってのが本音なんだ。
というのも、依頼をこなしたことが無駄になるケースも確かにあるが、そういう簡単な依頼ってのはそもそも提出されること自体少ないんだ。素材を例に挙げると、大体集めるのに時間がかかる、あるいは幾つでも欲しい、そういう依頼のほうが多いのでそこまで急ぐ必要もない。それに経験上、結果を求めるあまり急ぎすぎるとろくなことがないからな。
期限にしても短くて三日以内で、大抵は七日以内とかが多いから冒険者は焦らずに依頼を受けることが可能なんだ。
「――ん、これは……」
「ラフェルさん、どうしました?」
「あぁ、この依頼なんだけど……」
ランク:F
依頼者:匿名希望
期限:七日
報酬:金貨2枚
依頼内容:
フェルクス鉱山の魔鉱石(薄紅)を100個お願いします。
1万個集まり次第終了とさせていただきます。
「えっ、すごっ! F級の依頼で金貨2枚って……!」
アイシャが驚くのも無理はない。大体銀貨1枚くらいが相場のF級にしては破格すぎる報酬だからだ。しかも、ここから徒歩で三十分ほどでいけるフェルクス鉱山でよく採掘できるレベルの魔鉱石(薄紅)を100個持ってくるだけでいいなんてな。
そこで採れるエネルギー資源の一つである魔鉱石には三段階のレベルがあって、薄紅色のものは一段階目なので一番出てきやすい。その上100個なら1時間あれば集められるから相当楽だ。
「これって、もしかして三段階目の真紅の魔鉱石と間違えたんじゃないか?」
「でも、はっきり薄紅って書いてますし……」
「だよなあ……。ま、一応受けてみるか」
「ですねっ!」
あまりにも旨すぎる話なので冷やかしとかトラップの類なんじゃないかとも思うが、それはそれで仕掛けたやつを懲らしめることができるし、新参の冒険者への被害を抑えることにもつながるから回復術師としては悪くない。
「――ふう……よし、100個溜まった。アイシャは?」
「はぁ、はぁ……たった今溜まりましたぁっ!」
「おー」
あれから俺たちは早速フェルクス鉱山へと向かい、せっせとつるはしで1時間ほど採掘して魔鉱石(薄紅)をアイシャと二人で計200個溜めたところだった。つまり、これで金貨4枚分ってことになるわけで、さすがにいくらなんでも旨すぎだろうと笑いが止まらなくなる。ちなみに、適度に休憩しつつ回復術でお互いの疲労を回復させながらでこの結果だ。
「さて、そろそろ戻ろうか」
「はあい」
楽だし面白いくらい採れるのでもっとやってもいいくらいなんだが、俺たちのように依頼を受けてやってきたっぽいライバルもどんどん増えてきたし、混雑やトラップの可能性も考えてこの辺でやめることにした。
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