5.当たり前


「ラフェル様、おめでとうございます。ギルドの申請が通りました」


「「おおっ……!」」


 俺は受付嬢からギルドカードを受け取り、アイシャとともに声を弾ませる。これで俺たちは晴れて旅団ギルド【悠久の風】の一員となるってわけだ。


 名前:ラフェル

 年齢:20

 性別:男

 ジョブ:回復術師

 冒険者ランク:S

 所属ギルド:【悠久の風】※ギルドマスター

 ギルドランク:F


 名前:アイシャ

 年齢:16

 性別:女

 ジョブ:錬金術師

 冒険者ランク:E

 所属ギルド:【悠久の風】

 ギルドランク:F


 お互いのカードを見比べてみればわかるが、ちゃんと同一ギルドになってるのが確認できる。ギルドは作り立てだと総じて最下位のFランクから始まるんだ。俺はS級、アイシャはE級の依頼を受けることが可能だが、Fランクの依頼をこなさないとギルドランクは上がらないことになってる。


「アイシャ、これからは俺たちでF級の依頼を地道にこなしていかないとな」


「はい、そうですね。私とラフェルさんの二人だけで末永く……」


「そうだな……って、い、いや、メンバーは増やすつもりだぞ?」


「うー……っていうかラフェルさん、S級って……! 道理で凄いわけです……」


「いやいや、俺は無駄に長くやってるだけだから……」


 そういや、どうやって依頼を攻略しようかって試行錯誤してる間にいつの間にかS級になってたんだよな。なので自分としては未だに実感がいまいち湧かないっていうのが正直なところなんだ。


「それよりアイシャ、じっとしててもしょうがないし早速依頼を受けにいこうか?」


「ラフェルさん、そうはいってももう夜ですよぉ……?」


「あ……」


 そうだった。ここに来た時点で陽が暮れる時間帯だったってことをすっかり忘れてた。


「うふふ……私、どうしてラフェルさんが凄いのかわかった気がします!」


「いやいや、俺なんて別に凄くないし普通だから……」


 実際、元ギルドの【聖なる息吹】じゃ俺の回復術はできて当たり前の扱いをされてきたわけだからな。


「むぅー、いい加減認めないと、ぎゅーぎゅーの刑ですよ!?」


「お、おいおい……」


「ふふっ、冗談ですよ冗談! さあ、依頼は明日からってことでお宿に行きましょー!」


「ちょっ……!」


 こうして、俺はアイシャに強引に引っ張られる格好でギルド協会をあとにすることになるのだった……。




 ◇◇◇




「……うっぷ……ち、ちっくしょう……」


 ギルド協会の飲食スペースにて、すっかり酔っ払った様子のクラークが項垂れつつ愚痴をこぼしていた。


「き、金貨1000枚分の……俺の最高級のマイグラスがパーになっちまった……ひっく……」


「とはいってもですねえ、クラークさんが自分の不注意で割ってしまったんですから、こればっかりはもうしょうがないんじゃないですかねえ」


「ケインの言う通りよ、クラーク! いくら高級っていってもね、大の男がグラスくらいでいつまでも愚痴るなんてみっともないったらありゃしない!」


「あらあら、なんだか悪いわねえ。あたいのせいで揉めちゃってるみたいで……」


「……い、いや、カタリナは悪くねーよ。おえっ……も、元はといえば、俺たちに追放されたあのゴミカスのラフェルが悪い! あいつが普段割れたグラスを元に戻してたから、俺はてっきりそれが当たり前だって思っちまったんだよう! う、は、吐きそう……」


 クラークが目を剥いて口を押えたので、メンバーが一様に動揺した表情で立ち上がる。


「ク、クラークさん、ここで吐くのはさすがにやめてもらえませんかね……? せめて外で……」


「そ、そうよ。人目もあるところなんだからもう少し我慢してよ……!」


「う、うっぷ。そうはいってもよ……外までもう間に合いそうにねえ……って、カ、カタリナ、そういうわけだから治してくれねえか……?」


「はあ?」


「……よ、酔いくらいなら治せるだろ……? おえっ、おえっぷ……グラスは無理でもよ……ラフェルはこんなのすぐ治してくれたぜ……」


「はあ……クラーク、夢の中の出来事をあたいに要求されても困るんだよ。あんたってA級のギルドマスターなのに本当に何も知らないのね。回復術っていうのは普通、傷や疲労を治すものでそれ以外は無理って決まってるのさ。いくらあたいが新人だからってバカにしないで頂戴っ!」


「マ、マジかよ……じゃああいつは一体……うっ……おぐうええぇぇっ!」


「「「ひあっ……!」」」


 とうとうクラークが耐えきれない様子で嘔吐し始めて、メンバーの悲鳴がこだまするのであった……。

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