4.ギルド協会
「うわ……」
「多いですねー」
俺とアイシャはギルド協会へ到着したわけなんだが、人の多さに目がくらみそうだった。いつも賑わってる場所とはいえ今日は特に多い。もう夕方が近いし、駆け足で用事を済ませようっていう人も多いのかもしれないな。
だだっ広い協会内の手前は依頼の貼り紙を確認できるスペースで、左右は待合室と休憩所、奥には飲食スペース、中央に小部屋が付いた円状のカウンターがあって、依頼を提出、受諾する受付、ギルドを募集、設立する受付の前にはいずれも長蛇の列ができていた。
「四の五の言わず並ぶか」
「そっ、そうですね!」
長くかかるように見えて、こういうのは意外と早く出番が回ってくるものなんだ。回復術で常に気持ちを新鮮なものに更新していくと苛立ちもスッと消えていくから楽だし、周りの景色を見る余裕なんかも生まれてくる。
この行列に並んでるのは、一部喋ってるのもいたがほとんどが緊張した様子の初々しい冒険者ばかりだった。まさにこれから新しいギルドを作ろうっていうんだからそりゃ硬い表情にもなるか。
「あ……」
「ラフェルさん?」
「あ、いや、なんでもないんだ」
そういや、ギルド結成には結構なお金がかかることを思い出した。確か金貨5枚、銀貨10枚だったか。不安になってきたのでアイシャに見られないようにこっそり懐から小袋を取り出して確認すると、金貨が6枚、銅貨28枚でぎりぎりだった。元所属ギルドのランクを上げるために結構遠出してたから出費がかさんだんだよなあ。
「じー……」
「っ!」
アイシャに覗かれたので急いで金を後ろに隠す。
「あの……今ラフェルさん、お金を確認してましたよね?」
「あ、ああ。宿泊代はあったかなって……」
「ギルド結成のためのお金の確認ですねっ!」
「う……」
バレてたか……。
「ラフェルさんったら、それくらい私が払いますよぉ」
「い、いや、いいよ。金ならあるし」
「ラフェルさん……そもそも私はあなたに散々助けてもらってるのにろくにお礼ができなかったんですよ? なので任せてください! もし断った場合……」
「断った場合……?」
な、何をするつもりなんだろう。アイシャの目が据わってる……。
「今ここでぎゅーってしちゃいますよぉ……?」
「わ、わかったよ。今回はアイシャに任せる」
「はぁい!」
あれはただでさえかなり恥ずかしいからな。しかも彼女の胸も当たるから余計に。
「あ、そういえばギルド名は考えました?」
「ん、そういやまだだったな……」
確か、作るように要請したギルド名が既存ものと被ってしまうと拒否されるんだったか。たまに受付前で頭を抱えてる冒険者がいるのはそういうので悩んでる可能性が高そうだ。
「じゃあ決めないとですねっ、こうして並んでる間に」
「そうだな……何かいい候補はあるかな?」
「んん……えっと、そうだ、【愛の巣】とか……!?」
「却下」
「うぅ……」
いくらなんでもそれは恥ずかしすぎる。絶対誤解されるし、新規メンバーも入り辛いだろう……。
「それじゃラフェルさん、お願いしますね!」
「あぁ、そうだなあ……誰にも縛られない自由気ままな旅団ギルドってことで、【悠久の風】なんてどうだ?」
「おー、格好いいでしゅう!」
「……」
アイシャが声を上擦らせてるしお世辞ってわけでもなさそうだ。これなら割りとよさそうだな。よし、このギルド名でいくとしよう。
◇◇◇
「「「「――乾杯っ!」」」」
時と場所を同じくして、ギルド協会の奥にある飲食スペースでは、クラークらのギルド【聖なる息吹】が新人の歓迎会を執り行っていた。
「どうもよろしくお願いするわね、聖騎士クラーク、剣士ケイン、魔術師エアル。あたいはさ、A級冒険者で回復術師のカタリナっていうのさ」
「「……ごくりっ……」」
クラークとケインの熱っぽい視線が、カタリナと名乗った青髪の女性の豊かな胸に注がれる。
「もぉ、どこ見てんのよ、しっかりしてよ、クラーク、ケイン!」
「ぐへへ……お、おう、わりーわりー」
「うへへ……も、申し訳ないですねえ」
エアルにたしなめられてクラークとケインが気まずそうに笑う。
「ったくもう……。ごめんなさいね、カタリナ」
「それならまあ大丈夫よ、エアル。あたいはさ、男性のこういう視線には慣れてるもんだから。ホホッ……」
「チッ……こ、これからもよろしくね!」
口元を引き攣らせながら笑いにくそうに笑うエアル。
「いやー、いいおっぱい……じゃねえっ、仲間に巡り合えて光栄だぜ、カタリナ!」
「ぼ、僕も光栄です、カタリナさん!」
「あたいもA級ギルドに入れて光栄さ。それにしても人数が少ないのよくここまで来れたもんだねえ」
「そりゃもう、ラフェル……あ、いや、みんなの頑張りがあったおかげで!」
「そーそー」
「僕たちが死に物狂いで頑張りましたから……」
「それはそれは、あんたたちは努力家なのねえ。ン……好きよ、そういうの……」
妖艶な笑みを浮かべ、ウィンクしてみせるカタリナ。その様子にはっとした顔のクラークが手を滑らせ、黄金の竜が施されたグラスを割ってしまった。
「あ、わ、わりーわりー!」
「クラークさん、何やってるんですかね。正直僕も危なかったですけど……」
「ってケイン、お前もかーい!」
「きゃははっ、まったくもぉ、クラークもケインもドジなんだからー!」
クラークたちの軽い調子に対し、カタリナがさも意外そうに目をまたたかせる。
「あらあら、高そうなグラスを割ったのに気にしないのかい……?」
「そりゃなあ、グラスなんていつでも簡単に直せるし気にするわけねえって! カタリナも回復術師なんだからわかるだろ?」
「……えーっとさ、あたい、あんたの言ってることがよくわからないのだけれど。回復術ではそんなの直せるわけないわ……」
「「「え……?」」」
カタリナの呆れたような物言いに対し、クラークたちはいずれも驚いた様子でお互いの顔を見合わせるのだった……。
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