3.旅団
「あのぉ、回復術師さん、よかったらお名前を伺ってもよろしいですか……?」
「ん、ああ、俺の名前はラフェルだ」
「ラフェルさんですね! 私は錬金術師で、アイシャっていいます!」
「アイシャか。それじゃ、達者でな」
「はあいっ……って、ラフェルさん、ちょっと待ってください!」
「えっ?」
ギルド協会へ行こうとしたらアイシャと名乗った少女が追いかけてきた。
「もしかしてまだ治してほしいものがあるのか?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんですけどぉ……」
「……」
なるほど、治してほしいものはあるけど、図々しく思われたくないしそれは私のほうから言わせないでよってことか。
「アイシャ、ちょっと中を見せてくれ」
「えっ……!? は、はい……って、屋台のほうですか!」
何故か赤面するアイシャの屋台を確認してみると、割れたポーション瓶がそこら中に散乱してるのがわかった。これもあいつらにやられたものなんだろう。よーし、早速元に戻してやるとしよう。俺はほかの無事な瓶を裏側までじっくり確認したあと、そのイメージを回復術とともに割れた瓶に適用してみせる。
「はわわっ!?」
破片や液体が見る見る合わさり、屋台の陳列棚に次々と戻っていくポーション瓶を見てアイシャが仰天してる。
「す、凄いでしゅうぅ……」
「……」
この子、興奮すると酔っ払いみたいにろれつが回らなくなるタイプみたいだ。俺としてはそこまで凄いことをしたつもりはないんだが。元ギルドだと酔っ払ったクラークが瓶を割ってしまって俺が直すなんてことは日常茶飯事だったからな。
「あ、あのっ、ラフェルさんはポーションの味も直せるんですか!?」
「えっ……そうだな、不味ければ回復できると思う」
「それなら、私のポーションは味に欠点があるみたいなので、是非直してほしいです!」
「そんなに不味いのか? どれどれ――うっ!?」
試しに一口飲んでみたわけだが、即座に吐き出したくなる程度には不味かった。なんというか腐ったような臭いもするから気分まで悪くなってくる。
「うぅ、栄養は満点なんですけどねえ。味はどうしても一向によくならなくて……」
「……」
なるほど、それなら味だけ治せば問題ないか……ってなわけで、不味いポーションを飲みながら味覚へのダメージを回復するとともに、美味しいポーションの味を思い出してそこに近付けるように回復術で補正していく。
「――よし、上手くいった。飲んでみて」
「あ、はいっ!」
俺が手渡したポーションをアイシャが一口飲んだときだった。明らかにびっくりした様子で一気に飲み干してしまった。
「ぷはっ……! お、美味しいれふうううぅ!」
「あはは、そりゃよかった。旨味の成分に関しては調べればすぐわかるから。それじゃ、今度こそ達者でな」
「ダメですっ!」
「えっ……」
アイシャにがっしりと背中をホールドされてしまった。俺が貧弱なせいもあるだろうがかなり力感がある。てか、胸が当たってるし……。
「だ、ダメって……?」
まだ回復しなきゃいけないものがあるんだろうか?
「も、もしよかったら、私と手を組みませんか!?」
「手を組む……?」
「はいっ。私、行商をやってるんですけど、ラフェルさんのような方が側にいてくれたら百人力だと思って……!」
「いやー、俺なんて全然大したことないと思うけど――」
「――そんなことないですから! というかもう放しませんっ! ぎゅーっ!」
「……」
強引な子だ。そこまで俺の回復術を気に入ってくれたんなら悪い気はしないんだが、俺の夢はあくまでもギルドで成り上がることだからなあ。
「ダメ、ですかぁ……?」
「んー、協力したい気持ちもあるんだけど、俺は冒険者ギルドを探すために協会へ向かうところだったんだよ」
「冒険者ギルド?」
「あぁ、ギルドを追放されちゃったから一から探そうと思ってね」
「そ、それなら一緒に冒険者ギルドを作ればいいんですよ! 行商が八割ですけど、私も一応冒険者を兼ねてますから!」
「え?」
何を言い出すかと思ったら……。
「でもそれじゃ八割やってるっていう行商は……」
「あれですっ、旅団です旅団っ……! 旅をしながら冒険者としての依頼もこなすギルドにすればいいんです。そしたら行商だってできまふっ!」
「な、なるほど……」
なんか旅団の意味が少し違うような気もするが、そういう自由奔放なギルドがあっても面白そうだな。俺が直々にギルドを作ってマスターになればもう追放されるようなこともないだろうし。
「よし、んじゃアイシャも一緒に行くか」
「ふぁいっ!」
そういうわけで、俺たちはポーション屋台とともにギルド協会へと向かうのだった……。
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