2.揉め事


「はあ……」


 とんだ祝賀会だった。まさか俺の追放を祝う会でもあったとは……。


 とはいえ、もう終わったことだから切り替えていかなくては。再起、再生に対する熱意、エネルギーっていうのは回復術のコツでもあるからな。


「……」


 それでも、追放された瞬間を思い出して悔しさを糧にするのも忘れない。冒険者としてではなくあくまでもギルドで成り上がるっていうのが俺の夢だったが、こうなった以上は仕方のないことだ。これからコツコツとゼロから人脈を作っていくことにしよう。


 そのためには仲間を募ることから始めないといけないなってことで、王城をあとにした俺はその足でギルド協会へと向かって歩き始めた。


 そこは各ギルドに所属する冒険者のために様々な依頼を受け持つ組織のことであり、新しいギルドの結成や勧誘、募集も可能で酒場も兼ねた町に一つはある施設だ。当然、ギルドに入れてほしいという俺の依頼も個人情報とともに掲示されることになる。


 今までのように控えめすぎるとまたいつか今回みたいな目に遭うかもしれないので、次はしっかり自分の力をアピールしようと思う。まあそうはいっても自分には回復術しかできることなんてないから不安もあるわけだが……。


「――きゃああぁぁっ!」


「なっ……」


 十字路に差し掛かった頃、近くから少女の悲鳴が聞こえてきた。どこだ……いた。人気のない路地裏のほうだ。どうやらあの小さな屋台で、金髪の少女がガタイのいい男たちと何か揉めてるみたいだな。近くで様子を見てみるか。


「おうおう、可愛い悲鳴上げてんじゃねえ。てめえの売ってるポーションが不味すぎて思わず割っちまっただけだろうが」


「そーそー。こんなに糞不味いポーション、そりゃ飲んだらびっくりして割るのもわかるぜ」


「むしろ客に不快な思いをさせた代償として、その体で払ってほしいくらいだあ。なあ?」


「「「ぐへへっ……!」」」


「そ、そんなあっ……」


「……」


 なるほど、ポーション屋の店主が絵に描いたような下種どもに絡まれちゃってるって構図か、可哀想に。


「お前たち、その辺でやめないか」


「「「あ……?」」」


 男たちが一斉に振り返ってくる。額に青筋を浮かせてれでもかと厳つい顔を向けてくるが、今まで沢山のモンスターと戦ってきたのでまったく動じることはない。


「おう、なんだこのヒョロガリ、いい度胸してるじゃねえか」


「おいお前、そんな貧相な体で俺らに盾突く気かー?」


「そのほっそい腕、へし折られてえのかあ?」


「俺の体を心配してくれてるようだが、回復術に余計な筋力はいらないから余計なお世話だ」


「「「あぁ……!?」」」


「や、やめてください、お願いです。その方は私の店とは無関係です。お金なら払いますので――」


「――いや、その必要もない」


「えっ……?」


「「「こいつっ!」」」


「きゃっ、きゃあぁぁっ! だ、誰か、誰か助けてくださいっ!」


 男たちが激昂した様子で襲い掛かってくる。俺は一方的に殴られていて、少女が助けを呼ぶ痛ましい声が響き渡った。


「おい見ろ、やっぱりこいつ雑魚だ!」


「よええくせにイキがってんじゃねえぞー!」


「オラオラッ、どうしたあ!?」


「……」


 みんな気持ちいいくらいに殴ってくれてるが、痛みはまったく感じなかった。何故なら痛みを感じるより先に傷を回復してるからだ。


「――こ、こいつ、様子がおかしいぞ。まだ倒れねえ……」


「し……しぶてえ野郎だ、畜生ーっ!」


「倒れろ、早く倒れろおっ!」


「「「はぁ、はぁ……」」」


「……」


 男たちは立派なガタイの割りにもう疲れたらしく、すっかり手の動きが止まってしまってる。さて、そろそろ反撃させてもらうとしようか。


「「「がはあぁっ!?」」」


 男たちの顔が一瞬にしてボコボコに腫れ上がり、一斉に倒れて折り重なる。俺はこいつらから今まで食らった分のダメージをこいつらの体に戻す、すなわち回復してやったんだ。助けを呼びにいこうとしていた少女がびっくりした様子で駆け寄ってくる。


「あ、あなたがやったんですか、これえ……!?」


「ああ。回復術は攻撃にも使えるからね」


「しゅ、しゅごい……っていうか、あなたのような回復術師さんを見るのは初めてですうっ!」


「ん、そうなのか? 俺としては別に普段通りやっただけだが……」


「ほ、ほえぇ……」


 まあ彼女は見た感じベテラン冒険者って感じでもなさそうだし、こういうのが物珍しいんだろう。俺は自分についてはまだまだ未熟な回復術師で、これからも成長していかなければいけないと思ってるんだ。

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