第8話 これは最悪の事態だわ
あいつ、浮気していたんだ!
頭が真っ白になって、思わず飛び出していた。
「彰人! これはどういう事!」
「涼香‼ なんでこんなところに?」
彰人の怯えたような目を見て、ハタと気づいた。
ああ、またやってしまった!
これだから私はだめなのよ。
どうしてもっと大人な対応が出来ないんだろう……
おかしいと思うと直ぐに口を出してしまう。
そのせいで、どれだけ貧乏くじを引いてきたことか……
大人の女を演出しようと頑張ったけど。
もう、どうでもいいや!
私は覚悟を決めて、彰人に詰め寄った。
「あなたキャンセルするとか言って、最初からその人と一緒に来る気だったのね!」
「だーれ? この人?」
連れの女性が不思議そうに私を見ている。
うう、私よりずっと若い女の子。かるそー。
「ちょっと待ってくれ。これには訳が……」
私の腕を掴んでその場を離れようとする彼を振りほどき、私は宣言する。
「おめでとうございます! 浮気男と、どうぞお幸せに!」
すると彰人は真っ赤な顔で怒りだした。
何よ! 自分が蒔いた種でしょ。
せいせいした気持ちで戻ろうとすると、今度は彰人が逆襲に出てきた。
「お前こそ、なんだ、あの男は!」
指差す方には、香坂さんが……
「今日初めて会った人よ。関係ないでしょ」
「お前こそ浮気してたんじゃないのか」
「なんですって!」
二人で声を殺しながらやり合っていると、後ろから香坂さんの声が。
あああ……こんな修羅場を見られるなんて、最低!
「あの……お取込み中すみませんが、何か誤解があるようなので申し上げておきますと、彼女とお会いしていたのは転職の件です。前々から希望されていたので」
「え? お前そんなこと一言も」
「え? なんでそんな」
パクパクしている私に、香坂さんは見事なウィンクを送ってくれた。
うわん、ズギュンって感じ。
いやいや、そうじゃなくて。
「そ、そうよ。仕事の話をしていたの」
折角の香坂さんの助け舟を無にするわけにはいかない。
私は落ち着きを取り戻して言った。
「そうか……わかった。いいところが見つかるといいな」
案外素直に納得してくれた彰人に拍子抜けしたけれど、これで少しは留飲が下がったというものだわ。
改めて、香坂さんのナイスフォローに感謝した。
のだけれど、ちょっと待って!
転職って……今私、彰人に転職って言ったよね。
上司に転職したいって、言っちゃったよね。
終わった……私のキャリア The End!
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