第7話 やっぱり運命の出会いってあるのかも

 19時30分


 ショーが始まった。


 クリスマスの曲が次々流れ、色とりどりの電飾がきらびやかに舞輝く。

 

 上を見上げれば、夜空を覆う金属の枝に星のように瞬く光。

 宇宙に包まれる様な感覚を全身で感じる。

 

 横にはイケメン!


 そう、ボタニカルな彼は声もスタイルも素敵だったけれど、面差しもカッコいいの。

 鼻筋が通って、意志のしっかりした大きな瞳。やや薄いキリっとした口元。


 ついつい、チラチラ見てしまう。


 色とりどりの光に彩られた彼の横顔。

 やっぱりセクシーだわ。


 こんな素敵な男性と光のツリーの下で、イブを過ごす事ができたなんて!


 一人で過ごさずに済んだシンガポールのクリスマスイブ。

 ホワイトクリスマスでは無い、暑いクリスマス。


 キリスト教信者じゃないけれど、神様に感謝した。




「夕飯は食べましたか?」


 ショーの余韻に浸っていた私は、イケボのお誘いにドギマギしてしまった。


「いえ、まだ」

「じゃあ、良かったら一緒に食べませんか? こんなに綺麗なところで一人も寂しいですからね」

「確かに……でも、彼女さんに悪いから」

「ははは、彼女なんていませんから。そう言うあなたこそ、彼氏に連絡しなくていいんですか?」


「……ふられたんです」


 言ってしまってから、私のバカーと叫びたくなった。

 

 何を自ら恥をさらしているんだ……


「すみません……でも、これであなたを誘っても、殴られることは無いですね」

 

 彼はそう言って笑ってくれた。


「申し遅れました。私の名前は香坂仁こうさかじんです」


 香坂? うん? どっかで聞いたような?


「私は蝶野涼香ちょうのすずかです。よろしくお願いします」


 

 マリーナベイサンズの一階のレストランはガラス張りの吹き抜けの下。


 香坂さんは香水のバイヤーをしていて、シンガポールで新しい蘭の香の香水を作りたいと思っていること。

 蘭の花は香りが少ないので、抽出が難しく少量になってしまうこと。

 だからコストパフォーマンスを良く考え無いといけない事等、真剣に話してくれた。


 雑貨も香水も仕事も好きな私は、思わず身を乗り出して聞いてしまう。

 

 香坂さんって、仕事熱心なのね。


 彼のことperfumeと結び付けていたのは、あながち的外れな空想では無かったんだわ


 そして、シンガポールの素敵な雑貨の話で盛り上がった。


 アラブストリートのジャマルカズラの香水瓶や、トルコランプ、ババニョニャ文化プラナカンが息づくパステル色の陶器。


「新しい香水の瓶は、プラナカン模様の陶器にしたら素敵」

「なるほど! いいねそれ!」


 香坂さんは兎に角聞き上手。


 思わずもらした私の他愛もないアイデアに、いちいち相槌を打ってくれて、本当にいいひとだな~


 仕事の話をする香坂さん、情熱的で素敵……


 ワインのほろ酔い気分も手伝って、私は最高に幸せな気分になっていた。


 


 その時、視線の先にカップルの姿が……


 あれは……彰人!

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