第3話 運命は甘くない
結局私は、自腹をきってここへ来た。
だって、折角の休暇。
悔しいじゃない。
それにしても飛行機代高かったな~。
直前だったから、夜便しか取れなかったし、眠い!
長い入国審査までの道のりを、朦朧としながら歩く。
そんな私を揺り起こすように、何度も同じ香りが包み込んできた。
アロマミストでも流しているのかしら?
チャンギ空港からオーチャードやマリーナエリアまでは、30分程度。
タクシーとMRT(地下鉄)どちらでも行かれるけど、荷物を考えるとホテルまで直行がいいな。
無事荷物を受け取って、長いタクシーの列に並んだ。
ふと列の前を見ると、先ほどの男性も並んでいるのが見えた。
そう思った途端、またあの香りが鼻腔に蘇った。
現実の香なのか、妄想が生み出した香なのか、区別がつかなくなる。
でも、いい香り。
やっぱり好きな香りだわ。
爽やかで甘い花の香り。
あの香りが人間の姿になったら、きっと彼みたいな感じだろうなと思ってしまう。
幸せな気分になりながら、そのまま彼の観察を続けた。
私より少し年上かな?
30歳ちょい過ぎ。
スタイルがいいわね。
サラサラな髪をかき上げるしぐさにすら色気が漂う。
男性は手慣れた雰囲気で上着を脱ぐと、ラフなTシャツ姿になった。
そうだった! 真冬の日本から真夏のシンガポール。
私も慌ててカーディガンを脱いで、白いタンクトップ姿になる。
リゾート気分を満喫しなくちゃ!
彼と同じタイミングで、停車中のタクシーへ案内された。
彼はどこにいくのかしら?
気になったけれど、そんなの考えても仕方ない。
彼が乗った青いタクシーを横目に見ながら、運転手に行き先を告げた。
「T
シンガポールの朝日は遅い。
空港を出ると、真っすぐな
左側にはEast Coast Park。
レインツリーの深い緑に包まれた公園の向こうには、本来なら海が見えたはずなのだが、今はまだ暗闇の中。
反対側の中央分離帯を見て、ようやくテンションがあがった。
一面の紫ピンクのブーゲンビリアの花。
常夏の島!
ハイウェイのライトの中、二台先に彼の乗る車が見えた。
密かに運命の恋を期待して、ワクワクしてみる。
20分ほど真っ直ぐ走って右手にコンドミニアムの一群が現れ始めると、道が分岐し始めた。
私の乗った黄色いタクシーは右の道へ。
彼の乗った青いタクシーは左の道へ。
私の淡い期待はあっけなく終わった。
そりゃそうよね。
そんな小説のような恋が転がっているわけないもの。
しかたがないので、夢物語を想像するよりも現実を楽しもうと気持ちを切り替えた。
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