第2話 クリスマス二週間前に失恋した

「俺たち別れた方がいいと思うんだよね」


 はぁ? 何それ!


 分かれた方がお互いのためみたいな言い方して。

 はっきり言ったらいいじゃない。

 もうお前は必要無いって!


 夜景が美しいホテル最上階のフランス料理レストランで、恋人の杉浦彰人すぎうらあきとがいきなり言い出した。


 それは、チャンギ空港に降り立つ二週間前、つまりクリスマス二週間前のことだった。


 なんで今それ言い出すかな~

 これから一番大切なデザートと言うタイミングで!


 社内恋愛なんてするもんじゃないって、つくづく思う。


 一生懸命サポートした職場の先輩彰人あきとは、課長補佐へ昇進した途端、別れ話を切り出した。


 お前が居てくれるから、俺は頑張れる


 そんな歯の浮くようなセリフ、言って無かったっけ?


 悲しかったし、悔しかったけど、不思議と涙は出なかった。

 私自身、このまま彰人と結婚して、子ども生んで育てて、そんな生活を想像できなかったから。


 本当は、世界中を飛び回るバイヤーになりたかった。

 バリバリ仕事して、好きな小物雑貨のプロデュースをしてみたい。


 でも、就職活動はそう簡単にはいかず、なんとか憧れの花菱はなびし商事に勤められたけれど、営業事務。


 一流商社と言っても、割と古い体質の花菱では、事務職の私が海外を飛び回るなんて、夢のまた夢。


 それでも、海外物流の専門になれば社内でもつぶしが効くはず。


 語学と日本の通関の知識、海外の法律、貨物や船舶関連。

 死に物狂いで勉強した。


 自分が主役になれなくても、脇役でも、海外の素敵な商品を日本に紹介する、そんなお手伝いができたら。

 それだけでいいと思っていた。



 彰人だけは、そんな私の努力を認めてくれていると思っていたのに……


 

 口へ運びかけたチョコレートケーキを浮かせたまま、私は彰人を睨んだ。


 だから、こんな高級レストランに誘ったんだ……手切れ金替わりに

 プロジェクトの成功祝いだと思った私がバカだった

 


 彰人は私に構わず、分かれた方が良い理由をあげつらった。


 うちの会社で社内恋愛は後々面倒くさいとか

 お前もこれからキャリアを積みたいなら、今回の成果を持って次へ進んだほうがいいとか

 俺が上司に推薦してやるとか


「じゃあ、クリスマスの旅行はキャンセルってことだよね?」

「まあ、そうなるな……俺がキャンセル料払って手続きするから! 本当にすまない」


 彰人の情けない姿を見ていたら、すっかり私の熱も冷めてしまった。


 泣いたりすがったりは柄じゃない。

 失った物は振り返らない。


 明日からは、単なる上司と部下だ。

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