第一章 20話 中年は小金持ちの料理係となり、レイは進化しヒトへ至る

シドー一行は難波と周辺の魔物地帯を往復し、魔物化した熊や猪など金目のものを中心に狙った結果いつしか小金貨20枚も手にした小金持ちとなっていた。それに貢献したのは、ソラ用に作った複合弓の存在が大きかった。


異なる木材や角、骨を使用し強靱な腱を弦に使い形も和弓ではなく持ち手が全面に出ており両端は持ち手から段差を付け両端に繋がっている。弓の内側にも熊から取った腱が張り合わされており、外側は太い蔓で弓を巻いている。


普通だと引くのも困難だが流石に細胞融合で強化されたソラは軽々と細腕で引いて見せた。強化版コンポジットボウといったところか。矢尻については闇マーケットでお釣りを貰う際、わざわざ鉄貨を100枚ほど準備して貰い、それを溶かして矢尻に変えた。返しも付けているので簡単には抜けない。矢筒にはイノシシの革をなめしたものを筒状にし30本程入れておけるようにした。矢尻だけは大量に生産したので破損の度に作るか修復している。


ソラはこの弓を巧みに使い、獲物を売却素材として使用可能な状態で仕留める。一撃で眉間を貫くなど、損傷を出来るだけ少なく出来た。


レイはレイでどうやって理解したのか木火土金水(金とは電気もだそうだ)の魔法を操り、素材にならない魔物相手や、素材として完品を諦めた場合に容赦なく使って貰っている。生活する為にはただ倒せばいいわけではなく、売ることを考えると始末の仕方にも一手間が必要だ。まして肉類はシドー達の貴重なタンパク源なので欠かすことは出来ない。



そうして数週間がたった頃、レイがすっくと立ち上がり「はい!レイはそろそろ栄養も情報もそろったので成長しようと思います!」

職場の宴会で隠し芸でもやる口調で宣言した後、レイは小さいボディスーツを脱ぎ捨て、自分の全身に干渉し始めた。彼女の周りをどういう原理なのか幾何学的な紋様の円環が複数取り囲む中、みるみるうちに小人から大人の身体に変化した。


その変化の過程は見とれるほど奇麗なものだった。しかし問題なのは見た目だ。以前の小人が人間サイズの大人の女性になりその時点で縮尺がおかしい。そして元の小人とは全く別人の容貌だ。細胞の一致で彼女本人だと分かるのだが、どう見ても知らない人だ。


「レイ、お前その姿どうやった???」

レイは今回納品する予定のクマの毛皮を被って、「マーケットに行ったときシドーさんのタイプだろう女性から髪の毛を拝借しました♪何人かから拝借したのでコピーではなくオリジナルですよ。」あっけらかんと彼女は言う。


「それは、オリジナルというのではなくハイブリッドとかでは、、、」シドーは余りのことに何とか一言返答するのがやっとだ。


確かに彼女はバストこそソラに及ばないもののそれなりの大きさで銀髪細身で端整でクールな顔立ちをしており正にモデルと言った容貌だ。身長こそ160cmでモデルには少し足りないが、ソラとは違った美女に変体した。レイがモデルならソラは水着系アイドルか。シドーはぱっと見だけでは両手に花となった。そして彼のタイプなのだ。


「シドーさんの好みをいっぱい集めたから気に入らないはずはないですよね?」


と屈託なく笑う彼女に苦笑したが自分の為にしてくれたことなのだろうと素直に「とても奇麗だよ」と返しておいた。


勿論シドーも容姿こそ変わらないが成長していた。刀の性能や血に依存する闘い方だけでなく風の魔素を使いこなして刀や拳から【風の刃】や【圧縮空気の塊】を生み出し、空気砲では威力を調整して獲物の心臓を直撃させ一時的に身動きが取れなくなった相手の首を風の刃で刈るということまで出来るようになっていた。そろそろ梅田に行く頃合いかと思い、丁度新しいボディースーツを身に纏ったレイとソラを呼んで打ち合わせをする。

「今ある素材を売り飛ばしたら梅田に行って本格的に情報収集にあたろうと思うのだけど、お前達はどうだろうか?考えがあれば聞かせてくれないか?」


「全てはシドー様のお考えのままに従いますわ」

「シドーさんの幸せ生活が旅の目的だからそれで良いと思いますよ。」


「そっか、ありがとな。じゃ景気よく猪と熊の焼き肉をやってしまうか!」


二人の口からよだれが流れる。

「良いんですか?資金源にするのでは?」

「でもでもっ、!シドー様が頑張って作っていたソースもそろそろ頃合いだし試すのも良いかなーって、ただお肉を食べたいだけだけですが、、、」


シドーのソースと言うのはその辺の果実を細かく刻んでマーケットで買った野菜、砂糖と塩、値が張った貴重な香辛料をぶっ込んで熟成させたものだ。味見は途中で何度もしながら調整し完成と言えるレベルまでこぎ着けたのだ。


肉が焼ける香ばしい香りにつられて美女二人は目を輝かせヨダレを垂らしながら箸代わりの鉄串で皿をチンチンと鳴らして「まだかなまだかな」と言っている。経緯を知れば当然だが、この三人組。料理が出来るのはシドー一人だ。しかも独り暮らしが長かったり病床で食べたいグルメのレシピを暗記し能才で再現できるまで見続けていた。結果牛はまだここへ来てまだ食べられていないが野鳥や、熊、猪などは何度も捌いて既に慣れたものだ。


「よし、焼けたかな?二人とも待たせたな!好きなだけ食ってく、うわっ」

シドーが言い終わる前に二人に突進され焼き場を乗っ取られた!

「まて!食べる前に『頂きます』だ!敵対していた魔物や動物とは言えその命を喰らって生きているんだ。命を頂く感謝は必要だろ!」


二人ははっと気づいて合掌し、声を揃えて「「頂きます」」と言うやいなや凄まじい速度で肉が彼女ら胃袋に消えていく。シドーはと言うと料理人あるあるで作っている間に食欲が失せて肉体強化に必要な量を食べて満足していた。


「それにしてもレイはともかく、ソラはもとは草食動物だろ?肉を食べるようになったどころか好物に変わるなんてな。不思議なもんだよ」


「ふぉれは、しどーしゅまのほぉうほい血で、、」

「いい年した若い女が口にものを入れて喋るな!要は細胞が変化して人間っぽくなったって事だな。よく聞き取れるな、俺。」


「それ食ったら休憩して移動するからなー」

シドーは今、幸せだった。前世界では不幸にも家族に恵まれなかったが、今はこうして自分の料理を喜んで食べてくれ、自分のことを大切に思ってくれている。必要とされたり頼られることは多々あったが、それは能力に対してで、弱った時、辛い時、助けになってくれる人間なんて誰一人いなかった。


だから、この時間も彼にとっては人生の目的なのだ。ただ生き別れになってしまった娘だけはどうしても心に残る。もっと色々してやりたかった。もっと時間を取って遊びたかった。病に倒れたからとは言えどうしても自分を責めてしまう。せめて娘が幸せな人生を送ったことを信じるしか出来ないのだから。


「シドーさん、ぼーっとしてたらお肉なくなっちゃいますよー!あ、追加で焼いてくれたら良いんだ。熊のモモ肉追加で!」

「じゃシドー様、私は猪の背中の肉を追加で!」


「俺は、いつから焼き肉屋の店長になったんだよ、、、」


「「あと、シドーさん(様)の焼き肉のタレ、サイコーですっ」」


こんな所でもハモるのか、彼は苦笑しながら水魔法を応用して内側を凍らせた保冷バッグから肉を取り出してまたいそいそとナイフでカットするのであった。


「これが幸せなんだろうなー。」とシドーが独りごちた。

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