第一章 19話 中年は兎を相棒と思い、兎は中年をつがいと思う。
昨晩夜が更けた時、たき火の火を絶やさないようにして少し離れたところに熊の毛皮を布団にして寝たはずだった。レイはシドーのアタマの横で、ウサギのソラはなぜか毛皮の下が気に入りそこで寝ていたはずである。寝るは勿論、基本的に単独行動のウサギが珍しいと思っていた。
シドーは明け方、頬に柔らかい感触を感じた。暖かく懐かしい様な、それでいてつい触れてしまいたくなるような。大昔、こんな感触があったような、、、はっと気づいて目を開けた。すると何故か眼前には女性だけが持つあの双丘、しかもかなり立派なサイズのものが視界一杯に展開されているのだ!何が起こった?レイが急成長?いやレイは横で寝ているし大体アイツは無計画な成長をするような奴ではない。
起き上がって横を見るとミルクティー色の茶髪の間から見える細長い耳を生やしたスタイル抜群の女性、身長は155cm程度、が全裸で寝ているのである。何者かを確かめようとそーっと後ろに回り込んでみる。すると尾てい骨辺りにウサギ特有の白く可愛らしい短い尻尾があるではないか。
もしかしてソラなのか?ウサギは眠りが浅くいつでも直ぐに活動できるはずなのだが、この美女は熟睡しているし起きる気配がない。シドーは急いでレイに念を送り、事情を確かめた。
「(おい、レイ!俺の横にいる全裸の女は誰だ!アタマのウサギ耳とシッポが限りなく怪しいが、あれはもしかしてソラ、なのか?)」
『マスター、お早うございます。横の女?どっかでナンパしたんじゃなくて?いや冗談です。びっくりしましたが確かに遺伝子情報ではソラですね。マスターの血からバイオナノマシンを大量に送り込んで全ての器官に融合するのがマスターの願いだったじゃないですか?』
「(それは怪我を治すというか死んで欲しくなかっただけで!!)」
『人間であるマスターの情報も渡ってますし、遺伝子が書き換えられて、人の姿に近づいたのかも知れませんね。獣返りとか集落でも言ってたじゃないですか?ウサギの獣人みたいな。兎人(とじん)とでも呼ぶんですかねぇ?』
「(何をのんきな、、、)」
とシドーとレイが問答を繰り広げてるとソラ?の長い睫がピクッと動き、その後大きくて奇麗な瞳が開いた。シドーを見るなりうっとりしている。そして裸のままシドーにまとわりつこうとしたので必死で制止して、この美女がソラであるか念の為確認することになったのだ。
「おい、、、色々聞きたいことはあるがソラなのか?あとお前もわからないことだらけだろうがまずかこの毛皮を羽織ってその身体を隠してくれ。」
「おはようございます。主様。私は仰るとおりソラですよ?主様の為に何かしたいとか、好意を寄せていたことで、主様から頂いた細胞が最適化してくれてこのような身体になったと思いますよ。愛してます。」
「人間の言葉の語尾は『愛してます』じゃないから。取りあえず性別を昨日確認しなかった俺も手落ちだけどお前は雌なのか?」
「はい、主様、私は雌です。あなただけの雌と呼んでいただければ。愛してます。」
「だ、か、ら!語尾に『愛してます』は入らない!で経緯はともかくウサギ人間みたいになってしまったんだな?あと、次語尾に愛してますを付けたらここで置いていく。」
「主様?昨日あれだけ危険を犯してまで救っていただいた上に名前まで付けてくださって、好きになるなと?それは獣でも無理ですよ。まして同じ身体になってしまってはもう止められませんよ。主様を思う気持ちと主様からの熱い血肉が私の身体をこうまで変えてしまったのです。あい、、」
「ギリギリ止めたみたいだから良しとしておく。確かにお前にはウサギの体長にしては血と細胞を送り過ぎたかも知れない。とりあえず、俺はお前には友達になって欲しくて助けたんだ。出来れば、俺の友達になってはくれないか?」
「主様、友達だなんて他人行儀な!召使いでも奴隷でも何でも致します『つがい』が理想ですが。お傍に置いてくださいませ。アイシテマス。」
「だめだ、こいつは。どうしてこうなった、、、まぁお互いの関係性はともかく旅のお供に来てくれることはわかった。で、だ。ソラのようなウサギ人間はいるのか?」
「主様、私は産まれて1年なので、殆ど知らないですがそう言う仲間がいることは聞いております。アイシテマス」
「1歳か、人間換算すると大体20歳前後で俺の見た目より少し年上か。確かにその身体とこの奇麗さは子供のものではないな。。。細胞自体はレイのものが全身に分布されているから謎の進化と言うことも出来る。全身の能力も魔物ウサギだった頃よりは格段に進化していることだろうな。というかその仕草や会話は何故出来る?」
「それはレイさんいや、主様の貴い細胞が脳にも結合しているらしく知識は充分に入っておりますので。アイシテマス」
「とりあえず次に語尾に『アイシテマス』付けたら本当に放置な。しっかし聞けば聞くほど不思議な存在だ。。。」
流石のレイも圧倒されていて言葉が出てこないようだ。
「主様、お話は終わりでしょうか?それで早速、子種を頂きたいと、、、」
「あぁ、元はウサギだった。年中発情期だ。とりあえず今は子供は入らない。だから子作りはしない!」
「えー?そ、そんな。。。では子作りでなければ構わないのですね?」
「たった今人間になったばかりのヤツが快楽に溺れようとするな!! 」
「何を言っているのです?快楽に溺れるのは獣の本性ですよ?むしろ人間が薄いくらいです!」
「そ、そうなのか。確かに大体の獣は雄1匹に雌多数のハーレムを造っているな。それはともかく。そんなことをしたい為に態々治療したんじゃねぇ!」
もうシドーはゼェゼェと肩で息をしている。精神攻撃には耐性がある彼だったが、この手のものには万全ではないようだ。シドーにしては人間らしい反応で、彼も過去からの決別が出来てきたのか。
「さて、気を取り直して、当面は街で素材を売って金に換え、生活用品などを買ってからこの辺りで身体を鍛えよう。梅田へ急ぐ必要は無いんだし。ここらでちゃんと生きていく力を付けることに変更は無しで。あと良い機会だから俺のことは二人ともマスターと主様とか呼ぶのを辞めよう。シドー。ちゃんと名前で呼ぶように!」
「分かりましたわシドー様」
「りょーかいです!シドーさん!」
うさ耳メイドと妖精とか人によっては物凄く需要があるだろうが、生憎シドーは特化した趣味はなかった。
「取り替えずソラを守りながらだと訓練にならないのでお前は武器を持って戦って貰うよ。レイ、彼女に適した戦闘スタイルとか判断付くか?いや違う、まず第一にするのはコイツの服を造ってくれ。お前が自分の服を創ったような魔改造で良いから。」
「シドーさん。魔改造とは心外な!ちゃんと自然の原則に従っているつもりです。多分。」
そう言うやいなやソラから熊の毛皮をはぎ取り、ナイフを魔力でなのか遠隔操作して、型紙もなしに人型のボディースーツを作り上げた。
なぜか所々クマの毛皮はむしっていない。聞くと女性らしくファーをあしらったそうだ。シドーの生きた前時代だと毛皮イコール悪だったが、こちらは生きるために使ってるので熊には感謝しながら使って貰うしかない。
もちろん下着などはないのでボディーラインがこれでもかと主張している。どうやったのかスーツの前面中央に上から下までファスナーが造られており、材料の調達など色々突っ込みたいところもあった。
だが問い詰めてた所ではぐらかされるだけだからスルーする事に決めた。シドーのスーツはテクノロジーの結晶とも言える産物なので脱ぐときは勝手に伸びてストンと脱ぐことが出来るが、レイやソラのものは現地調達で造っているため脱ぐ機構が必要になる。ファスナーは製造過程の不審な点はともかく便利ではあった。
「そのうち二人とも似合う服があれば買うなり調達するなりするが今はそれで納得してくれ。どちらも革では頑丈な部類に入るはずだから寒さもしのげるはずだ。」
「そうはいってもシドー様?私は元がウサギなので暑さに弱いのです。だから、、」
と言ってファスナーを下げ初めたがギリギリの所で見えていけない部分に差し掛かったところでシドーが辞めさせ、それ以上下げるなと厳命した。
「さて、この世界でヒトとして生きていく為の授業と金策だ。頼んだよ、二人とも」
シドーは嬉しかった。偶然とは言え過去に大好きだったあの相棒が、違う個体とは言え会話で意思疎通が出来て更に一緒に行動してくれるのだ。レイと1.5人ぼっちの生活が終わり、これからの生活に更なる希望を抱き魔物退治へ向かった。
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