80話 手と手


「ぐ……ぐぐっ……だ、ダメだ……ゴポッ……」


 困った。宝箱が開かない……。


 まさか、熊の力や怪力の腕輪をもってしてもびくともしないなんて思わなかった。確かこういうのを開けるためには、《開錠》っていうテクニックが必要みたいなんだよね。


 ギランのようなならず者たちの中にはこういうテクニックを持ってる人もいそうだけど、危害を加えられてるわけでもないのに削除しに行くというのも気が引けるしなあ。


 さて、どうしようか――


「――あっ……!」


 そうだ、もしかしたらが使えるかもしれない……。


 早速僕は思いついたことを試すべく、下降したあと氷柱つららをルーズダガーで切り取り、削ることで細く加工すると、宝箱の鍵穴に差し込んで【混合】+《裁縫・大》+《料理・大》で縫うように様々な箇所を弄ってみる。


 料理という言葉には、本来の意味のほかに物事を巧みに処理するという意味合いもあるから、裁縫と組み合わせることで開錠テクニックの代用ができるはずなんだ……。


 ――カチッ……!


 おおっ、しばらくして小気味よい音がしたので宝箱の蓋を持ち上げてみると、キイィという音を立てて開き始めるのがわかった。よしよし、上手くいった。さあ、あとは中に何が入ってるのか調べるだけだ……。


「えっ……えぇ……? ゴポッ……」


 何も入ってない……というか、真っ暗なんだけど、なんだこりゃ――


『――ウウゥゥゥウッ!』


「っ!?」


 宝箱の中から鳴き声のような甲高い音がしたので慌てて仰け反ると、小さな闇から巨大なタコの触手が次々と飛び出してきて、僕を捕まえようとしてるのか巻き付いてきた。


「くっ……」


 ルーズダガーですぐに切り裂くも、それらはすぐに再生して僕に向かってきた。これじゃきりがないね。とにかく敵のステータスを覗かせてもらうとしよう。


 名前:セパレートガーディアン

 レベル:112

 種族:魚貝

 属性:水

 サイズ:大型


 能力値:

 腕力S+

 敏捷A

 体力SSS

 器用S

 運勢A

 知性S


 スキル:

【分離】

 効果:

 自身に付着しているものを意識するだけで剥がすことが可能。

 

 特殊攻撃:

 毒霧

 効果:

 猛毒を放出する。これに触れている間、麻痺や意識障害等を引き起こす。


 特殊防御:

 超再生

 効果:

 身体の内外の重大な状態異常、欠損、及び致命傷を自然回復する。回復スピードはレベル、ステータスに依存する。


 特殊防御2:

 完全擬態

 効果:

 違う物に完全に成りすますことができる。鑑定スキル等で見破ることは不可能。


 うわあ、レベル112って高すぎ……。そのほかに目を引いたのが【分離】っていうスキルだ。意識するだけで付着してるものを剥がせるなら受動的パッシブ効果なんだろうしできれば欲しいね。王城でとりもちに苦労しただけに。


 ただ、次に気になったのが毒霧っていう特殊攻撃の部分だ。こんなのを使われたら削除したときには効いてるわけだからまずいしなるべく早く倒さなきゃいけない。そうなるとスキル獲得は断念してとっとと片付けちゃうか。


 そういうわけで、クアドラも持ってた特殊防御の超再生も考慮して【瞬殺】を使ってみたわけなんだけど、触手は切っても切ってもまだ伸びてきてるし効いてる気配が一向にない。


 あれ……? クアドラみたいに兄と合体してるわけでも、スプリットガーディアンみたいに分裂してるわけでもないのに一体どうして……って、なんとなくだけどわかってきた気がする。一部分だけ姿を見せてるような状態じゃダメなんじゃないかな。


 よーし、宝箱の中から本体を一気に引き摺り出してやる。


「あっ……」


 スルッと滑った。触手なだけあってそれだけぬめぬめしてるから手が抜けやすいんだ。でも次こそは成功するはず。僕は触手を掴みつつ【混合】+《裁縫・大》+《跳躍・大》で強く結んでから思いっ切り引っ張った。


「えっ……?」


 ダメだ。やっぱり滑るように触手から手を離してしまった。でも、確かに縫い合わせたはずなんだよね。ってことは、まさか……いや、間違いない。これこそがやつの所持スキル【分離】の受動的効果なんだ……。


 つまり、これを削除しない限りタコを宝箱から引き摺り出すことは不可能なわけだね。っていうか、使う際に魔法陣を出してくるわけでもないスキルをどうやって削除すればいいっていうんだ――?


『――ウゥゥゥゥゥウウウッ!』


「はっ……!?」


 その直後だった。宝箱の中から黒々とした何かが放出されたんだ。こ、これが恐れていた例の特殊攻撃、毒霧なのか……。それを証明するかのように早速体が痺れてきて言うことを聞かなくなり、目眩までしてきた。


「ぐぐっ……?」


 さらに触手が伸びてきて胴体に巻き付いてきたかと思うと、そのままゆっくりと振り上げられ、本来は天井にあるはずの氷柱に向かって勢いよく振り下ろし始めた。


 いくら活力の帯で体力が上がっていて【難攻不落】スキルで防御力が高いといっても、あれに叩きつけられたら串刺しになっちゃうのは確定だしさすがに厳しい。まさか、こんなところで死んでしまうというのか、僕は……。

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