75話 信念
「ホント、危なかったな、カイン……」
「うん、そうだね、クロードさん……」
「二人とも大変だったね~……」
あれから僕はクロードとともに、彼の妹のミュリアが経営する武具屋まで来ていた。
カウンターの奥に小さな部屋があって、そこでみんなと丸いテーブルを囲んで紅茶をいただくことに。
ふう……本当に、一時はどうなることかと思った。もうしばらく王城は懲り懲りだ。
スキルを封じる幾何学模様があるのは、今回王城へ行くまではてっきりソフィアと手合わせした場所くらいだと思ってたけど、そうじゃなかった。クロードが言うには牢獄や城の外部には脱獄囚、または侵入者対策のためにああいう仕掛けがふんだんに施されてるんだそうだ。
「それにしても、カイン君とお兄ちゃん、なんだか仲良くなったね~」
「「え……?」」
「だって、ここに来るまでずっと手繋いじゃってたし~」
「ミュリア……そりゃしょうがねえだろ? お互いに必死だったんだから。な、カイン」
「う、うん……」
そういや、武具屋に入るまでクロードと手を繋いでたんだっけ。彼の言う通り、それだけ自分たちが窮地に立たされてて、お互いのことを頼りにし合ってたからなんだろうね。
「ふふっ……。それにしても、城が燃えてるのは絶対カイン君を陥れるための罠だってお兄ちゃんが予想してたけど、ばっちり当たってたね~……」
「ああ。まあ俺もさ、カインを助けに行くなんて偉そうに言っておいて、危うく連中の罠にかかりそうだったけどな。シュナイダーは本当に油断できねえ男だ……」
「……」
ほっとしたことは確かなんだけど、一応クロードたちも二つの勢力のうちの一つなんだよね……。巻き込まれないうちに帰ろうかな。
「あ、あのっ、助けてもらって本当にありがとうございました、クロードさん」
「ん、なんだよカイン、急に」
「この御恩はいつか必ず返したいと思います。それじゃ、また――」
「――待てよ、カイン」
「……」
いつになく強い口調でクロードに呼び止められる。王城でのあの厳しい状況でも見られなかった一面を覗いた気がした。
「お兄ちゃん、ダメだよ~……」
「ミュリア、止めても無駄だ。このチャンスを逃すわけにはいかねえ。なあカイン、俺たちの正体についてはもう知ってたんだろ? 俺が第一王子ってシュナイダーに言われたとき、お前はなんら驚きを見せなかったしな」
「うん、一応……」
「どこで知ったのかはともかく、それなら話は早い。第一王子の俺と第二王女のミュリア、それに第一王女のダリアとその直属の部下シュナイダー、この二つの勢力争いがずっと続いてる。この泥沼の戦いを終わらせるためにもカイン、お前の力がどうしても必要なんだ。力を貸してくれないか……?」
「……」
「やつらの汚いやり口をカインも見ただろ? あいつらにだけは王位を継がせるわけにはいかねえんだ。この国が滅茶苦茶になっちまう。だから、俺がこの国の王になれるように協力してくれ、この通りだ……」
「ク、クロードさん……」
第一王子から頭を下げられているという異様な状況。それでもわかりましたと答えない僕も僕だけど……。
「ミュリアも黙ってないで何か言ってくれよ」
「……だからお兄ちゃん、無理強いはダメだって~……」
ここは曖昧にしたらダメだと思うし、はっきり言わないと。それも優しさだよね。
「ごめん、たとえミュリアのお願いであっても僕は協力できない」
「カ、カイン、お前――」
「――いつもここで世話になってるだけじゃなくて、助けてもらったことは本当に嬉しかったし、いつかは恩を返さなきゃって思ってるけど……そういう王位争いとかは今のところ興味なくて……それに、僕はギルド長とかも任されてるし、冒険者としての幅も狭まっちゃうから……」
「あのなあ、カイン……そんなの王位争いが終結すればいつでもできることだろ? このままだとお前が牢獄に閉じ込められたように、ダリアたちに無理矢理協力させられる羽目になるかもしれないんだぞ……?」
「……それでも僕は自分の信念を貫き通したいんだ。これは何よりも僕の中で尊いものだから……ごめん、ミュリア、クロードさん――」
「――カ、カイン、逃さねえぞ……」
怖い顔をしたクロードに行く手を阻まれる。僕はこの人たちと戦わなければならないのか……。
「お兄ちゃん、もうやめて……」
「うっ……」
今のミュリアの言い方、とても静かだけどクロードが黙り込むのもわかるくらい迫力があった。
「ボクね……カイン君の気持ちもよくわかるんだよ。誰かに強制されるんじゃなくて、あくまでも自分の意思で決めたいって。だからこそ、ここまで強くなれたんだと思う」
「……」
「ボクたちはそんなカイン君だからこそ、協力してほしくてもずっと黙ってたんだ」
「……二人とも、本当にごめん……」
「謝らなくていいよ。でも気が変わったらいつでも言ってねっ」
「うん」
「それと……これだけはないと思いたいけど……もしカイン君が敵側になったら、全力で倒しにいくから覚えておいてね。もちろん生け捕りだよっ。ね、お兄ちゃん?」
「あ、あぁ、カイン……そのときは、俺たちのためにたっぷり働いてもらうからな!?」
「う、うん。できればそうならないようにしたいけど……」
クロードもそうだけど、ミュリアの微笑んだ顔、いつもと変わらないようで凄く怖さがあった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます