64話 方向性


 名前:カイン

 レベル:53

 年齢:16歳

 種族:人間

 性別:男

 冒険者ランク:S級


 能力値:

 腕力S+

 敏捷B

 体力S+

 器用A

 運勢S+

 知性SS


 装備:

 ルーズダガー

 ヴァリアントメイル

 怪力の腕輪

 クイーンサークレット

 活力の帯

 エンシェントロザリオ

 宝珠の杖


 スキル:

【削除&復元】A

【ストーンアロー】B

【殺意の波動】B

【偽装】C

【ウィンドブレイド】C

【鑑定士】A

【武闘家】B

【瞬殺】D

【亜人化】D

【難攻不落】D

【進化】E

【擦り抜け】C

【混合】D

【維持】E

【ファイヤーフィスト】F

【アイススマッシュ】F


 テクニック:

《跳躍・大》

《盗み・中》

《裁縫・大》

《料理・大》


 ダストボックス:

 アルウ(亡霊)

 ファラン(亡霊)

 髑髏1956

 背中の痛み7

 肩の痛み6

 息苦しさ5

 腰痛8

 疲労19

 頭痛13

 眠気7

 倦怠感14


 もちろん気にはなるけど、もうステータスなんて懐中時計同様、ちらっと覗くだけだ。それくらい今の僕は忙しくて、リーネとミュリアの店で肉や鎧の破片等を売ったあと、冒険者ギルドまで一直線に向かっていた。


 ギルド長として絶対に係員たちとの夕食に遅れるわけにはいかない。まだ目的地の建物すらも見えない厳しい状況であと5分だし普通なら諦めるところだけど、スキルやテクニックを駆使してギルドまでの最短距離を邁進していく。


「――っ……!」


 遂に見えてきた……! 朝夕の会食はギルドの会議室で行われるので、二階へ跳び上がりつつ【擦り抜け】を使い、さらに【混合】+《跳躍・大》+《裁縫・大》で、縫うような無茶な跳び方で人を避けながら会議室へと一気に到着した。


「……」


 懐中時計を見ると残り3分で、全然楽勝だった……っていうか、いい匂いはするけどまだ誰もきてないし、そんなにぴったり時間を守らなくてよかったのかもね……。


「あわっ……ギルド長様、もういらしたのですかぁ……」


 お、係員の女の子が料理を乗せた手押し車とともに入ってきた。


 彼女は……確かおっとりとしててドジなタイプの子で、元々調理係だったけど手際が悪くて向いてないんじゃないかってクレーム報告書が届いてて、バランス感覚に自信があるってことで僕が最近料理の運搬係に人事異動させたんだった。


 っていうか僕がギルド長になったばかりっていうのもあるけど、彼女の名前をどうしても思い出せない。


「君は、えっと……」


「私はぁ、アンナと申しますっ」


「あ、アンナか……」


 僕の言葉に、彼女はこくこくと少し照れ臭そうな笑顔でうなずいてみせる。


「それではぁっ、これから料理を運びますねっ」


「あ、うん――」


「――きゃっ……!?」


 アンナが何かにつまずいて大きくバランスを崩したわけなんだけど、寸前で一気に修正してしまった。さすが、バランス感覚に優れてるってアピールしてるだけある。もちろん皿に盛られた肉料理も無事で、彼女はこういうことに慣れてるのか照れ笑いを浮かべたままだった。


「凄いバランス感覚だね」


「【平衡】っていう、私の持ってるスキルのおかげなんですよぉー」


「な、なるほど……」


 って、話し声とともに複数の足音が近づいてくる。


「あー、腹減ったぁー」


「ほんとねー」


「今日は頑張った分、一杯食べちゃおー!」


「あうぅっ、まだ準備していませーん……!」


「……」


 まずいね、このままじゃまた準備が遅い、向いてないとかでアンナに関するクレーム報告書を提出されてしまう。そういうのを無視するわけにもいかないし、どうしようか……。


「あっ……」


 知力が上がってるおかげか、咄嗟にいいアイディアが脳裏に浮かんだので試してみることに。


「――わっ、わわっ……!?」


 アンナが驚くのも無理はなくて、僕は料理を次々と【混合】+《跳躍・大》+《料理・大》でテーブルの方向に飛ばすと、その状態を【維持】しつつ《裁縫・大》+《料理・大》でそれぞれの席の前に縫い合わせてみせた。縫合がメインなおかげか飛び散ることもなくピタリと収まったし完璧だ……。


「すっ、凄いですっ。さすがギルド長様ぁっ……!」


「あははっ……」


 ギルド長としては褒められる方向性が少し違うような気はするけど、役に立てたのならよかった。


 お……タイミングよく係員たちがぞろぞろと会議室に入ってきた。


「おっ、もう綺麗に並んでるぜ!」


「わー……確かこれってアンナの担当だよね?」


「へぇ、ドジのくせにやるじゃないっ!」


「え、えへへ……ギルド長様、ありがとうございますっ……」


 アンナにこっそり頭を下げられて、僕はなんとも誇らしい気分になれた。これで彼女も今後は自信を持ってやってくれるはず――


「――カイン様、ここにおられたのですね……」


「あっ……」


 この声は……。振り返るとエリスが驚いた様子で僕のすぐ背後に立っていた。


「ずっと入口のほうでカイン様が帰ってくるのをお待ちしていたんですが、まさかここだなんて想像もできませんでした……」


「ま、待ってたんだ。エリス、ごめんっ。会食に遅刻したと思って、跳躍で一気に……二階の窓からっ……!」


「に、二階の窓からですか……? いくらなんでも無茶すぎますよ、もうっ……」


「あはは……」


「それにしても、今までどこに行っておられたんですか……?」


「あ、うん、ダンジョンのほうにちょっとねっ」


「ダンジョン……ま、まさか、例の不老草の依頼では……!?」


「そうそう、それっ。よくわかったね」


「カイン様がいかにも興味を持ちそうな依頼だと思ってましたから……って、もしかして達成されたとか……?」


「うん。これがその証明の依頼人のサイン。ついでに古城ダンジョンも攻略してきたよ」


「……」


 エリスは受付嬢だしちょうどいいと思って渡すと、彼女にしては珍しくぼんやりとした顔でサインを見ていた。よっぽど驚いたのかな……?


「もう、別次元ですね、カイン様は。ちょっぴり怖いです……」


「そっ、そんなことないよ、エリス。僕はただの人間だよ?」


「本当でしょうか……」


「本当だよっ。ほら、僕の手、触ってみて。温かいでしょ……?」


「た、確かにそうですねえ。おかしな仕掛けとかないでしょうね」


「あはは、ないない――」


「――ヒューヒュー!」


「「あっ……」」


 一人の係員から悪戯っぽい笑顔で冷やかされて、僕たちは急いで手を離した。あの子は確か、受付嬢の……あ、思い出した。


「今の、サラって子だっけ?」


「そうですよ。っていうかカイン様、こういうときはギルド長なんですから、叱ってもいいんですよ……?」


「あ……うん! おいこらー、サラとかいうのっ、僕は一応ギルド長なんだから冷やかしはダメだぞー!?」


「はいはーい」


「はいは一回でよろしいっ!」


「はーい!」


「……」


 サラに上手くかわされた上に周りから笑い声が上がって、僕はあえなく降参する羽目になってしまった。こりゃまだまだ威厳もへったくれもなさそうだけど、ギルド長としてはみんなとの距離がほんの少しだけ縮まったような気がする……。

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