46話 進化


「――はぁ、はぁ……」


 僕はいつの間にか、疲れを削除するのも忘れて戦っていた。むしろ、疲れるのが心地いいと感じるくらいだったし、それでも負ける気がしなかったからなのかもね。


 なんせ【難攻不落】スキルがかなり効いてて、飛んできた弓矢の一つに当たってしまいヤバッって思ったら掠り傷で済んだくらいだから、やつらの群れの中に紛れ込めるほど思い切った動きができるようになったんだ。


 もうこの村は虐殺された村人たちよりも、僕に打ちのめされて横たわる猪人族のほうが圧倒的に多いんじゃないかな……? 稀にまだ立ち上がるのもいたけど、これでもかってくらい暴れたから戦おうとする気力さえ残ってないはず。


「……」


 まもなく、僕はなんとも言えない空気を感じて振り返った。。とんでもなくヤバいのが……。


「あははっ……」


 なのに、僕は自分でも信じられないことに笑いが込み上げてくるのに気付いた。あれだけ戦ったのに、まだ足りないって体が求めてるような感じなんだ。血が煮えたぎるようなさらに激しい戦いを。


「――よくもここまでやってくれたものだなああぁ……」


 巻き上がった砂塵の中から現れたのは、今まで戦ってきた獣人よりも一回り大きい程度の猪人族の男だった。ヤバそうなのが来ると思って期待したんだけど、違ったのかな……。


「僕に解体されにきたの……?」


「言うなあ、人間。俺の前でそこまで言える人間、初めて見たじぇええぇ」


「……」


 彼が毛を逆立てて怒りの形相を浮かべたとき、空気が一転するのがわかった。この男、ただでかいだけじゃない。今までの猪人族と同じように見てたら痛い目を見そうだ。それくらいを持っているのがわかった。ここは【鑑定士】スキルで調べておかないとね……。


 名前:クアドラ

 レベル:48

 種族:猪人族

 属性:地

 サイズ:中型


 能力値:

 腕力A

 敏捷A

 体力S

 器用B

 運勢D

 知性C


 装備:

 アイアンメイル

 活力の帯

 効果:

 スタミナ(体力)が二倍になる。


 スキル:

【進化】

 効果:

 所持しているスキルを飛躍的に成長させることが可能。


 特殊防御:

 超再生

 効果:

 身体の内外の重大な状態異常、欠損、及び致命傷を自然回復する。回復スピードはレベル、ステータスに依存する。


 名前:ジギル

 レベル:44

 種族:猪人族

 属性:地

 サイズ:中型


 能力値:

 腕力A

 敏捷A

 体力S

 器用A

 運勢E

 知性F


 スキル:

【寄生】

 効果:

 他者の体の一部となり、同化することができる。


「……」


 な、なんだこりゃ。【鑑定士】スキルを使ったらのステータスが出てきた。しかもクアドラって猪人族の首領だよね。凄い情報ばかりでレア装備の活力の帯が目立たないほどだ。


 ってことは、この【寄生】っていうスキルで一緒になってるからなんだろうか――って……!? ステータスがクアドラのものだけに切り替わったかと思うと、装備と特殊防御を除いてどんどんしていく……。


 名前:クアドラ

 レベル:92

 種族:猪人族

 属性:地

 サイズ:大型


 能力値:

 腕力S

 敏捷S

 体力SS

 器用A

 運勢C

 知性C


 スキル:

【調和】

 効果:

【寄生】スキルが【進化】スキルによって大幅に成長したもの。両者のレベルやステータスを足し合わせることができる。


「う、うあっ……」


【調和】だって……? 思わず声が出るくらい、またとんでもないスキルが出てきちゃった。それを体現するように、クアドラの体も二回りくらい大きくなってるのがわかる。


 っていうか、92レベルって……。あれだけ苦労したドッペルゲンガーが51レベルだから、もう手に負えるようなレベルじゃないような。


「――フウウゥゥッ。力がどんどん湧いてきて溢れそうだじぇえぇ……。兄さん、今は窮屈だろうが待ってろぉ、このガキ、生きたまま丸々食わせてやるうううぅ……」




 ◆◆◆




「なっ、なななっ……なんだよおい、あの化け物はよ……!?」


 死体の少ない場所に移動したナセルたちだったが、彼らが建物の陰から目撃したのは、さらに震え上がるほどに図抜けた巨体の持ち主であった。


「あ、あんなの、絶対戦っちゃいけない存在よね……」


「オー、イエスッ。カインは最早神の生贄になったと思うしかあるまいっ……」


「カインさんみたいに強すぎるっていうのも考えものですよね。最後にあんな化け物に食べられちゃったら嫌ですもん――」


「――ククッ。そうは言うが、虎穴に入らずんば虎子を得ず、とも言うぞ……?」


「「「「……」」」」


 恐る恐る振り返るナセルたち。そこには仮面をつけた一人の男が立っていたが、それを見るやいなや青い顔で一目散に逃げ去っていった。


(ムウ、何故逃げるのだ……? 今の吾輩は【死んだ振り】スキルで死体と同化していないが……って、そうか。以前部下たちを引き連れて拷問したことがあったか。すっかり忘れていた。ククッ……)

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