45話 圧倒的
「ぬぐおおおおおぉっ!?」
「ぐっひゃああああぁぁっ!」
「ほげえええええええぇぇっ!」
「……」
とにかくきりがないほど湧いてくる猪人族を僕はなぎ倒していた。
【武闘家】【偽装】という二つのスキルとテクニック《跳躍・中》を駆使して、追いかけてくる連中を余裕でかわしながら一か所に掻き集めたあと、【ストーンアロー】と【ウィンドブレイド】でまとめて倒すっていうやり方だ。楽だし爽快感も味わえる。
それでも倒れない相手には、ルーズダガーで何度も往復するように斬りかかることでとどめを刺してやった。とっくに死んでてもおかしくないのにしぶとく立ち上がろうとしてくるタフなやつらだけど、さすがにここまでやるともう安心だった。
「ばっ、化け物だあっ!」
「こいつ人間じゃねえぇっ!」
「助けてくれえええぇっ!」
「あははっ……」
村を侵略していた猪人族たちからそう言われるのはなんとも複雑だけど、これで虐殺される村人たちの気持ちも少しは理解できたんじゃないかな?
「ま、まだまだあっ!」
「そうだ、やつは人間だ、貧弱だ、脆弱だ!」
「いずれ疲れるっ、いつか滅びるっ、今にくたばるっ!」
「休まず攻め続けろおおおおおおおぉっ!」
「……」
心身の疲労なんていつでも簡単に削除できちゃうんだけどねえ。どうやらもっと壊滅的な被害を受けないと彼らは心の底から理解できないらしい。そこは獣人だし、人間とはやっぱり性質が根本的に違うってところか。
さあて、彼らもやる気みたいだし、もっと暴れてやるとしようか……。僕は疲労や頭痛、マンネリから来る倦怠感を削除すると心機一転、【難攻不落】スキルを試す意味合いも兼ねて単身、猪人族の群れの中に身を投じていった。
◆◆◆
「――ク、クアドラ様っ、見てくださいっす! あれっす、あれが例のバケモンみてえな人間のガキっす……!」
「ほほうぅ……あれがそうなのかあぁぁ……」
一軒の家の屋根の上で胡坐をかき、そこから一人の少年と猪人族が戦う様子をいかにもつまらなそうに眺めるクアドラ。
「あの人間が来たことで、もう半数以上の仲間たちが壊滅したっす。そろそろ退却も考えるべきかと思うっす……」
「ん、退却……? 退却だとおぉぉっ!? このたわけ者めがあああぁぁっ!」
「ぐはっ!?」
クアドラが体中の毛を逆立てて部下の首を右手で掴むと、まもなくクチャクチャと咀嚼音がし始めた。
「猪人族ともあるものがあぁぁ、たかが人間一匹に対して退却などという下劣な言葉を口にするとは何事かあぁっ!」
「あ、あぐっ……お、お許しを……コヒュー……」
「よく聞けぇ。圧倒的な数を誇る猪人族がぁ、人間一匹相手に退却したとなればぁ、後世の笑い者となるだろううぅぅ。なあ、兄さん……?」
「クチャクチャ……ヒヒッ……」
「そうそう、大したことはねえぇ。あの程度ならぁ、俺と兄さんが力を合わせりゃあ、敵じゃねえええぇ……って、もうこいつには聞こえてねえかあぁぁ……」
「モシャモシャ……ヒヒッ……」
◆◆◆
「――お、おいっ、な、なんだありゃ……!?」
カインが一人で猪人族を圧倒する様子を木陰から見て、足をガクガクと震わせるナセル。
「なんなの……あれが本当に、私たちのパーティーの寄生虫だったカインなわけ……?」
「オーマイゴッド! あれはまさに鬼神だ……」
「な、なんかもう、あたしたちとは次元が全然違う感じですよね、あれ……」
リーダーに続き、メンバーのファリム、ロイス、ミミルの三人もカインの戦い振りには最早脱帽するしかない様子だった。
「ククッ……まあまあといったところか――」
「――ん? お、おい、今誰か、まあまあとか言ったか?」
「へ? 私じゃないけど……」
「ノー、自分も違うっ」
「あたしも言ってませんが?」
「おっかしいなあ。確かにすぐ側から聞こえたような気がしたんだが――」
「――しかし、クアドラの強さは想像を絶するものだ。どう打開していくのか見せてもらうぞ、カイン。お前の力をたっぷりとこの目に焼き付けてやる……」
「「「「っ!?」」」」
はっとした顔で周囲を窺うナセルたちだったが、そこには幾つもの横たわった死体があるのみであった。
「ククッ……」
「「「「ひいいぃぃぃぃっ!」」」」
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