41話 氷と熱


 名前:カイン

 レベル:38

 年齢:16歳

 種族:人間

 性別:男

 冒険者ランク:A級


 能力値:

 腕力S+

 敏捷C

 体力A

 器用B

 運勢C

 知性S+


 装備:

 ルーズダガー

 ヴァリアントメイル

 怪力の腕輪

 クイーンサークレット


 スキル:

【削除&復元】B

【ストーンアロー】D

【殺意の波動】D

【偽装】D

【ウィンドブレイド】E

【鑑定士】B

【武闘家】C

【瞬殺】F


 テクニック:

《跳躍・中》

《盗み・中》


 ダストボックス:

 アルウ(亡霊)

 緊張24

 疲労3

 息苦しさ

 肩の痛み

 眠気

 混乱

【亜人化】F

《裁縫・大》

 ファラン(亡霊)

 頭痛

 

「……」


 僕は朝の光で目覚めたあと、昨日の出来事はもしかしたら夢だったのかもしれないと思って【鑑定士】スキルで確認してみたところ、ダストボックスを見て紛れもなく現実なんだとわかった。


 削除した裁縫のテクニックはこれ以上ないレベルだったんだ……。これがなんの役に立つかは置いといて、やっぱり有能な子だった。あとで【亜人化】スキルとともに復元させておこう。


 アルウもダストボックスの中で一人じゃ寂しかっただろうし仲間ができたからよかった。本人たちは何もわからないかもしれないけど、たまに心の声みたいなのが聞こえてきたし、今頃中で普通にお喋りしてる可能性だってありそうだ。


「――カ、カインよ、もうここから離れてしまうというのか……?」


「あ、うん……」


 僕は部屋を出たところで第四王女のソフィアに呼び止められた。


「カインは冒険者であり自由人だから仕方ないか……。それでも忘れないでほしい。お互いの立場は違えど、貴殿と我は友人同士であるということを……」


「うん……わかったよ、ソフィア」


 彼女はいつもの凛とした笑顔を向けてくれたけど、どことなく不安そうに見えた。口には出せなくても、僕が王位争いに巻き込まれやしないかって心配してくれてるのかもね。


「カイン、我が送っていく!」


「うんっ!」


 ソフィアと一緒に王城の門まで楽しくお喋りしながら歩いて、そこからは僕一人で帰ることになった。振り返るとずっと手を振ってくれてたし本当にいい子だなあ。さあ、念願のS級冒険者になるためにまたA級の依頼を探さないと……。


「……」


 冒険者ギルドに向かおうとする自分の足が不意に止まる。ファランからレインという人の話を聞いたとき、かなり怖くなったのも事実なんだ。僕もいずれ同じような目に遭うんじゃないかって。


 でも、やっぱり僕はこのヘイムダルから離れるつもりなんてない。今じゃここが本当の故郷みたいなもんだし、エリス、リーネ、セニア、ソフィア、それに……ミュリアだっている。ダストボックスの中にはアルウやファランだって。


 ミュリアに関しては僕を王位争いに利用しようとしてるのかもしれないけど、それでも彼女に助けられてきた事実は変わらないからね。嫌なことは嫌だ、好きなことは好きだってはっきり言おう。誰が何を考えてようと、僕は僕らしく生きていければいいんだから。


 きっと……レインは優しすぎたんだろうね。誰かのために自分を犠牲にしすぎた。だから僕は冷たく見えるかもしれないけど、あくまでも自分のためにやらせてもらう……。




 ◆◆◆




「リーネ……頼むから僕を止めないでくれ……」


「カ、カインどの、ダメなのだっ。どうしても行くというのなら、うちもついていくのだあっ……!」


 リーネが涙目でカインの背中にしがみつく。


「リーネ……そんなに僕のことを……?」


「す、すすすっ……好きなのだあぁぁっ……!」


「うん、僕も大好きだよ、リーネ……」


「「……」」


 うっとりとした表情で口づけを交わすリーネとカイン。


(ほぉぉ、幸せなのだぁ……で、でも、なんだかカインどのの唇は冷たくて氷みたいなのだぁ――)


「――はっ……!?」


 ふと我に返るリーネ。彼女が目覚めたのは肉屋の横にある冷凍室で、自身が氷漬けのゴブリンに抱き付いていることに気付いて見る見る青ざめていった。


「ふ、不届き者ぉっ……!」


 リーネの強力な風魔法でバラバラになるゴブリンの死骸。


「ペッペッ……」


(ひ、酷い目に遭ったのだ。それにしても、冒険者ギルドは許せないのだ。カインどのに対して貼り紙を剥がす等の嫌がらせ……もし出ていくのであればうちもお供しなくては――)


「――リーネ、いないのー?」


「はわっ……!?」


 リーネが一目散に外へ飛び出す。そこにはいつもとなんら変わらない様子で店先に立つ少年カインの姿があった。


「カ、カインどのっ、待っていたのだ。これから都を離れるのなら、うちもついていくのだあっ……!」


「え……僕、冒険者ギルドに行く前に馴染みの店を回ってたところなんだけど……」


「ななっ……!? では、カインどのがこの都から出ていくという噂は……」


「そんなことはしないよ。リーネもいるしねっ」


「……ほ、ほおぉ……」


「リ、リーネ?」


 まもなくリーネはとても幸せそうな顔で失神した。




 ◆◆◆




「はあ……」


 武具屋のカウンターで頬杖をつき、不安そうに店の外を眺めるミュリア。


「浮かない顔だな、ミュリア」


「……あ、お兄ちゃん……」


 そこに現れたのは同じ兎耳を持つ青年クロードであり、呆れ顔でカウンターの上に座ってみせた。


「どうせあいつのこと考えてたんだろ? この町を出ていきやしないかって」


「そりゃそうだよ~。カイン君がギルドで嫌がらせされてるとか、あんな話を聞いちゃったら……」


「そういやレインのときもそうだったよな。周りから執拗に嫌がらせを受けて、最後は孤立して暴走……。カインだって同じようになるかもしれないんだし、あんまり入れ込んでたら最後に傷つくのはミュリア、お前――」


「――どうも、ミュリア、それにクロードさん」


「「あっ……!」」


 ミュリアとクロードが振り返ると、そこには笑顔のカインが立っていた。


「ほら~。お兄ちゃん、見たでしょ。カイン君は一味も二味も違うんだよ?」


「ちっ……。今回は中々しぶとそうなライバルだな」


「お兄ちゃん、そんなこと言ってなんだか嬉しそう~」


「そ、そりゃ敵が多いほうが燃えるからよ!」


「敵って……?」


 きょとんとした顔で二人の会話に割って入るカイン。


「あ……えっとね、カイン君。敵って言うのはつまり商売敵のことで、お兄ちゃんそういうのが多いほうが燃えるんだって。マゾだから~」


「ちょ、ミュリア、マゾってお前なあ……!」


「あはは、そうなんだ……」


「ってカイン、お前も普通に納得してるんじゃないぞ……!?」


 武具屋に訪れた熱が冷める気配はしばらく微塵もなかった……。

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