40話 略奪
「それはレインさんというお方でした……」
「レイン……」
なんだか名前の響きも僕に似てるような……。
「相手を戦闘不能にするとスキルを獲得できるという、【略奪】というスキルを持っておられたのでございます……」
「りゃ、【略奪】……」
スキル名はともかく効果までも僕のスキルに似てる感じだけど、その前に倒さなきゃいけないっていう前提があるから【削除&復元】の下位互換だね。
「スキル名的に怖い方だと誤解されやすいですが、本人はとても穏やかな方で、仲間も多くおられました。あえて包み隠さず自分の能力を打ち明けておられたようですし、襲われない限りこっちから手を出すことはないと、そう仰られていたのでございます。ですが、そのことで彼はさらに引っ張りだことなり、やがては王位争いの泥沼に巻き込まれてしまうことに……」
「な、なるほど……」
身につまされる話だ。やっぱり僕の能力は誰にも打ち明けないほうがよさそうだね。
「レインさんはどちらの勢力の味方をしたいというのはなく、今の仲間たちと冒険を続けたいという選択をしたのですが……本人だけでなく仲間にも嫌がらせが始まるようになり、その結果人望の厚かったレインさんを守ろうとしたギルドの方々を巻き込んだ壮大な抗争へと発展していってしまうのでございまして……」
「うわぁ……」
思わず声が飛び出してしまうくらい酷い話だ。エリスが忠告する気持ちも改めてよくわかる。
「その結果多くの被害が出てしまい、レインさんは心を病んで、孤立していってしまわれるのです。元々【略奪】というスキルには使いすぎると精神が不安定になるという副作用があり、仲間を守ろうと必死に戦ったレインさんはやがて我を失い、とうとう狂ってしまうのでございます……」
「えぇ……」
「暴走して無差別に【略奪】を繰り返すレインさんを止めるため、ギルド長様が決断を下すことになります。戦った相手は必ず死ぬということで、『破壊王』とまで呼ばれている凄腕の冒険者を呼び戻し……止めることには成功したのですが、その際の熾烈な戦いでレインさんは命を落としてしまわれるのでございます……」
「……」
聞いてて他人事とは思えない話だった。確かに非業の死だ……。
「自分は無能ゆえに助けることはできませんでしたが、これ以上の悲劇を繰り返したくない、その思い出こうして訴え出た所存でございます……」
「……なるほどね。ありがとう、ファラン。僕もそのレインって人みたいな能力だから気を付けるよ――って、あっ……!」
言っちゃった。どうしよう……。
「大丈夫です、カインさん。自分はアルウ様の無念を晴らすべくああいう噂を流しましたけど、基本的に口だけは堅いですので。それと、二つの勢力に同じように巻き込まれておられる時点で察しております……」
「な、なるほどね……」
「あの、もしよかったらここで自分の能力をカインさんに授けたいのですが。倒されてもよいので……」
「ちょっ……!」
いくらレインのものと似てるからってそういう方法で獲得するスキルじゃないんだよね。しかもファランも斜め上の勘違いをしてるのか顔を赤くしちゃって……。
「べ、別に倒さなくてもいいんだよ。スキルを使ってもらえたら……」
「あ、そうなのでございますね。では、行きます……!」
「……」
ファランの足元に魔法陣が出てきて、止まったところで削除する。これで【亜人化】スキルはダストボックスに入ったはず。よし、ステータス確認――
「――あの、もう一つ……」
「えっ?」
「実は渡したいテクニックもあるんです。もう使わないものなので、獲得できるものならよければ……」
「テクニックかあ。どんなの?」
「お裁縫なんですけど……」
ファランがそう切り出して、どこからともなく毛糸と針を取り出すとともに縫物を始めた。思わず引き込まれてしまうほど巧みな手捌きだ。
「あの、どうぞ……」
「ど、どうぞって……」
これじゃ僕に向けられたものじゃないから削除なんてできないはず。
「あ、そうだ。僕のために編む感じでやってくれるかな?」
「あ、はい。それならよろしければ、カインさんに自分の手を握っていてもらえると感じが出るかもです……」
「「……」」
僕たちはお互いに少し照れながらも手を合わせた。っていうか、凄く冷たい。アルウのとき以来だ。まさかね……って、試しに削除してみたら、彼女の指先が別人みたいな粗い動きに変わった。どうやらテクニックを削除できたみたいだ――
「――あっ……」
「カインさん、どうされました……?」
僕はファランの体が消えかかっていることに気付いた。彼女はおそらく……。
本当にそうなのかどうか試しに彼女自身を削除してみると、フッと消えた。やっぱりそうだった。彼女はそのことを知らないだけでアルウと同じく亡霊で、役目を果たすことができたと思ったことで無意識的に成仏しかけたんじゃないかな。
でも、まだファランを失うわけにはいかない。アルウがきっと必要としてるだろうし、彼女を復活させるための重要な鍵になるかもしれないから……。
それにしても、ファランは決して無能なんかじゃなかった。誰かに脅威だと思われてて、本人が知らないうちに謀殺されてしまったんだろうね。
色んな情報が短時間で一気に入ってきたせいか頭が痛くなってきた。頭痛を削除してから寝るとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます