18話 不穏
「――と、こういうわけだ、ギラン。ギルドでは今でもカインを中心にお祭り騒ぎだ……」
「マジかよ……ち、畜生……ぬおおおおおぉぉぉっ!」
ギルド近くの路地裏にて、沈痛な面持ちのジェリックから耳打ちされたギランが狂ったように叫び、両手の拳が血まみれになるまで何度も壁を殴りつける。
「うおおおぉぉっ! クソッタレクソッタレッ、カインの野郎、調子に乗りやがってええぇっ……! はぁ、はぁ……このままじゃ済まさねえ。ぜってえこの恨みは晴らす、意地でも破滅させてやる……」
「わ、私もまったく同じ気持ちだが、スキルが使えなくなってしまってる以上、もうどうにも――」
「――いや、どうにもならないってことはねえ。やつを陥れる手段ならある……」
「えっ……?」
「俺はな、ジェリック……エリート街道を歩んできたお前と違ってよ、色んな悪事に手を染めてきたし、裏の世界には結構詳しいんだ。その代わりとんでもねえ大金が必要になるが……蓄えならたんまりとある。これであの人にさえ頼めばカインは確実に終わりだ……」
これでもかと宙を睨みつけるギランの口元に、薄らと笑みが浮かぶ。
「――ふわぁ……あんたら、ここで何話してんの?」
「「えっ……」」
一人の少女が目を擦りながら起き上がり、ちょうど死角になっていた場所から馴れ馴れしく近づいてきたので仰天するギランとジェリック。
「な、なんだよこのガキ……。こんなとこで寝てやがったってことはホームレスか? 向こうへ行け!」
「乞食に恵んでやるものなどないぞ! しっし!」
「ほえぇ……? 失礼だなあ。こう見えてもオレは冒険者だぞ? 今はちょっと事情があってギルドに入れないからここで休んでただけさ!」
「「はいはい」」
「ちょっ……! 話くらいちゃんと聞けよおっ!」
馬の尻尾のような髪を揺らして喚く少女を置き去りにして、ギランとジェリックは足早に立ち去っていった。
◆◆◆
「……」
僕の胸に飾った銀色の双竜に視線が集まってるのがわかる。この褒章があるだけで人の見る目が今までとは全然違ってて、本当に生まれ変わったみたいだ。
「カ、カインさん、よかったら俺のパーティーに是非!」
「カイン君……あたしのパーティーに入ってっ!」
「カイン様っ、私のパーティーなんてどうですか!?」
「ちょ、待てよ、俺が先にカインさんに声かけたんだぞ!?」
「いやいや、あたしよ!」
「私です!」
「「「キーッ!」」」
「……」
気が付くと僕を巡ってパーティー同士の喧嘩が始まってしまった。かなり不穏な空気になってきたし、なんとも気まずいのでこっそりその場から退散することに。
誘ってくれるのはありがたいんだけど、ここまで来たらしばらく
超一流のS級冒険者になれば、ダンジョンに単身で入ることもできるようになる。なのでまずはそこを目指して、今のところはとりあえず一人でやっていこうと思う。まだ一緒に戦う仲間はいなくても、信頼できる味方はもういるわけだから一人だけど独りぼっちじゃない。
「んー……」
そういうわけでA級の依頼を探し始めたわけなんだけど、大体ダンジョン系ばかりで僕がやれそうなものはなかった。こういうのはA級以上の一流冒険者であってもパーティーを組んで挑むことが前提なんだ。それくらいダンジョンっていうのは危険な場所として知られている。
ただダンジョンを攻略するより、進路から大きく外れた場所にある隠された宝物を回収したり、戦いを避けることがセオリーな超強いモンスターやボスのレアドロップ品を集めたりするほうが難しいことが多くて、依頼の貼り紙に書かれてる内容はそれを欲してるものばかりだった。
んー、今日は見つかりそうにもないし諦めようかな――
「――あ……」
見つけた! ギルド近くの路地裏の奥にとんでもない化け物が出現したからそれを退治してほしい、だって。
それにしても、なんか妙な依頼だ。近くならもっと騒ぎになってるだろうし、これってどう考えても嘘なんじゃないかな……? しかもタイミング的に、僕を標的にしてるとしか思えない。冷やかしの可能性もあるけど、一応行ってみようかな。
予想通り罠に嵌めようとしてるやつらがいるなら懲らしめてやればいいんだし、今の僕は誰にも負ける気がしないしね。
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