17話 光と影


「カイン様ぁ、これでとうとうA級ですね……! 本当に心からおめでとうございますっ!」


「そ、そうなんだ。ありがとう、エリス!」


 冒険者ギルドに戻ってきた僕は、受付嬢エリスの弾んだ声で遂にA級冒険者まで上り詰めたことがわかった。よーし、早速自分のステータスを確認してみよう。


 名前:カイン

 レベル:31

 年齢:16歳

 種族:人間

 性別:男

 冒険者ランク:A級


 能力値:

 腕力S

 敏捷B

 体力A

 器用C

 運勢D

 知性S


 装備:

 ルーズダガー

 ヴァリアントメイル

 怪力の腕輪

 クイーンサークレット


 スキル:

【削除&復元】

【鑑定士】

【ストーンアロー】

【武闘家】

【殺意の波動】

【偽装】

【ウィンドブレイド】


 テクニック:

《跳躍・中》

《盗み・中》


 ダストボックス:

 疲労29

 恐怖18

 眠気7

 空腹6

 頭痛15

 吸収の眼光30(特殊攻撃)

 アルウ(亡霊)

 毒針24(特殊攻撃)


「……」


 何度見ても紛れもなくA級だから、自然と笑みがこぼれてしまう。何気にテクニックが一段階上がってるのも嬉しい。ほんの数日前までは追放されて泣き顔だった僕が、こうして一流の冒険者になれるなんて夢にも思わなかった。まだ上には上がいるとはいえ、本当に感慨深い……。


「これが今回の報酬と、A級の証明となる褒章です!」


「おおっ……」


 エリスから報酬の金貨25枚とともに、銀色の双竜が施された褒章を受け取ると、周りから一斉に拍手が巻き起こって驚いた。


「あ、あれ? 僕、てっきりみんなに嫌われてるとばかり思ってたんだけど……」


「まさか、そんなことはありえないですよ。あまりの昇給の速さに驚かれている方のほうが大半だと思います」


「そうなんだね……」


「はいっ。それに……今回のカイン様のご活躍には、冒険者だけでなく多くの一般人の方々が感謝なさってるんです。あの山はそれこそ色んな人々が利用するところですからね」


「なるほど――」


「――カインどの、おめでとうなのだ!」


「――カイン君、おめでと~!」


「えっ、ええぇ……!? リ、リーネ、それにミュリアまで、どうして……」


 カウンターの下からいきなり知り合いが二人も出てきたもんだから心臓が止まるかと……。エリスは口に手を当ててしてやったりの表情だ。


「フフッ……も、申し訳ございません。実はカイン様のことはギルド内外で噂になっており、実は以前からリーネ様とミュリア様があとどれくらいでA級になるのかとよく訊ねてこられていて、それでその瞬間が来たらこうしてサプライズする運びになっていたんです……」


「そうだったんだあ……」


 みんな用意周到だなあ……。周りから冷やかすように口笛が吹かれてなんとも気恥ずかしくなるけど、それ以上に今の僕は充足感で満たされていた。


「エリス、リーネ、ミュリア……それにここにいるみんな、本当にありがとう!」


「「「「「ワーッ!」」」」」


 どんどん人が集まってきてるのか、周囲が盛大な歓声に包まれる。


 それと、忘れちゃいけないことだけどアルウ(亡霊)にも感謝しなきゃね。振り回されたとはいえ、もとはといえば彼女を助けたことがきっかけでここまで鍛えられたようなものだから。といってもまだ助ける手段がわからなくて復元はできないけど、いずれ必ずなんとかしてあげるつもりだからそれまで待っててほしい。




 ◆◆◆




「ういー……ひっく、セニアのやつ、見つけたらただじゃおかねえっつーの……」


「ちょっと、飲みすぎだって、ナセル……。もうっ、みんなも何か言ってやって!」


「「……」」


 ファリムの懇願に対して、パーティーメンバーのロイスとミミルの二人が疲れた表情でお手上げの仕草を見せる。そこは冒険者ギルドであり、リーダーのナセルが何時間も飲みっぱなしで周囲には幾つも空き瓶が転がっていた。


「……おい、悔しくねえのかよ、うえっぷ……お前らは……」


「そりゃあ私だって悔しいけど、逃げた魚をいつまでも追いかけるより、新しい魚を捕まえたほうが早いでしょ!?」


「確かに。リーダー、自分もファリムに同意する。それとセニアのような兼任ではなく、専任の荷物係を探すべきだと思うのだが」


「あたしもロイスさんに同感ですね。荷物を一人で引き受けてくれるのって凄く助かりますし、それだけ戦いに比重を置けますから」


「ひっく……おい、そんなやつがどこにいるってんだよ。それこそ、カインくらいじゃねえか……?」


「「「……」」」


 ナセルの発言により、場の空気がこれでもかと沈み込む。


「わ、悪いな。あんなやつの名前、また出しちまって――」


「「「「「――ワーッ!」」」」」


「お、おい、なんだ? この騒ぎは……」


「カウンターのほうみたい」


「ン、まさかレジェンド級の冒険者でも現れたのかい?」


「行ってみましょう!」


 ナセルたちが移動すると、そこではカウンター前にいる少年を囲むようにして拍手や歓声が上がっているところだった。


「え……お、おい、あいつどう見てもカインだよな……?」


「う、うん」


「イ、イエスッ」


「そ、そうですね……」


「なのにあいつが胸につけてる褒章……銀色の双竜だからA級冒険者ってことか? ま、まさか、そんなのあるわけねえっ。酔っ払って夢でも見てんだろ。おい、誰か俺の頬をつねってくれ」


「「「了解」」」


「ぎゃああああっ!」


 ファリム、ロイス、ミミルの三人から同時に頬を強くつねられ、目を剥いて跳び上がるナセル。


「い……いってえぇぇ。じゃ、じゃあ、夢じゃないってことかよ、おいっ……!」


「そ、そうみたい、ねぇ……」


「オ……オーマイゴッドッ……」


「こ、こんなの、絶対におかしいです……」


 ナセルたちはしばらく魂が抜けたように呆然と立ち尽くしていた……。

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