16話 至高
「化け物めっ、来い。相手になってやる!」
『ヒュルルルルルッ――』
「――うぎゃあああああああぁぁぁぁっ!」
「っ!?」
あ、あれは……。
僕が現場に着いたときだった。そこから30メートルほど先で長剣を振り上げた男が、尋常じゃない速度で飛行する何かに迫られたかと思うと全身をまたたく間に切り裂かれ、血まみれになりながら吹き飛んでいった。
僕はレベルアップによって動体視力も向上してるためか、その正体がなんなのかすぐに把握することができた。蜂だ。それも、人間の大人並みに大きい……。早速【鑑定士】スキルを使って詳しく調べてみよう。
名前:ミストレス
レベル:38
種族:昆虫族
属性:風
サイズ:中型
能力値:
腕力C
敏捷S
体力D
器用B
運勢E
知性S
装備:
クイーンサークレット
効果:
頭部に装着することで知性(魔力)が大幅に増大する。
スキル:
【ウィンドブレイド】
効果:
切れ味鋭い魔法の風を発生させる。
特殊攻撃:
毒針
効果:
猛毒が塗られた針を放つ。命中すると体力が徐々に減っていく。
うわ……レベル38だって。35レベルだったあのオーガよりも高い。でも良さそうな装備を持ってるな。それに加えて魔法系のスキルも持ち合わせてる。装備が装備なだけに超威力になってるってわけだ。
さらに、新たに能力値もそうだけど特殊攻撃や効果まで一度に閲覧できるようになった。これは僕の【鑑定士】スキルの熟練度が順調に上がってるからなのかもね。
さて、これ以上の被害が出る前になんとかしないと……。僕は頭の中で色々とシミュレーションしたのち、《跳躍・小》によって一気に蜂のモンスター、ミストレスとの間合いを詰めていく。
『ヒュルルル――』
あ……ミストレスがこっちに気付いたらしくて、飛び掛かってきたかと思うと頭上で止まって魔法陣を足元に出してきた。スキルを使おうとしてるのは丸わかりだ。
『――ルッ……!?』
よし、タイミングよく削除してやった。これで【ウィンドブレイド】は僕のものだ。警戒したのか蜂は高く飛翔したけど、僕にとっては充分届く距離だし倒す前にやることをやっておかないとね。
まず【殺意の波動】で動きを完全に封じ込めると、僕は何度も高く跳び上がってクイーンサークレットを盗むために《盗み・小》を繰り返した。その際、【偽装】スキルで見た目の跳躍力を削り落としたり、ルーズダガーを当てようとして空振りしたりするのも忘れない。
これによって、追手や周りで見物してる冒険者たちに普通より少し強い程度の冒険者だと思われるためだ。だって、実際の戦闘能力が偽ステータスと乖離してたらますます疑われそうだしね。
その間、動きを封じられたミストレスは避けられないレベルの量の毒針を飛ばしてきたけど、削除したり【ウィンドブレイド】スキルで弾き飛ばしたりして対応する。もちろん、【偽装】スキルで僕の見た目の動きは少々劣化させているつもりだ。
「――あっ……」
思わず声が出る。おおっ、遂にクイーンサークレットを盗めた。そのまま被るようにして装着すると、僕は【ストーンアロー】スキルで頭上の蜂に反撃を開始する。
『ヒュルルルルアァァァッ!』
「……」
え、ええ……? ミストレスの体は一瞬にして蜂の巣になって地面に落ちることになった。これがクイーンサークレットの威力なのか……。慌てて【偽装】スキルで穴の数を少なめに補正したけど、自分でも呆然としてしまうくらいとんでもない破壊力だった……。
◆◆◆
「み、見たか、ジェリック! ヒャッホー! あれなら倒せるっ、殺してくれるっ。あの蜂のモンスターならカインをぐちゃぐちゃにしてくれるっ!」
「もちろん見ているとも、ギラン。もし仮に上級の協力者が出てきても違反を報告できて美味しい、一人で挑んでも無様に死んでくれるから美味しい! まさにどっちに転んでも至高の展開っ……!」
蜂のモンスターから少し離れた場所にある木陰にて、わくわくした様子で戦況を見つめるギランとジェリック。だが、しばらくして二人とも見る見る焦った表情に変わっていく。
「な、なんであんなしょうもない動きをしてるカインを殺せねえんだ!?」
「本当に、どうしてなのか!? あのモンスターの中に意地悪な人間でも入っているのか!? 早く、早く憎きカインを倒しておくれ! 蜂の化け物よ――」
『――ヒュルルルルアァァァッ!』
「「……」」
まもなくモンスターの断末魔の悲鳴が響き渡り、ギランとジェリックは苦悶の表情で頭を抱えるのだった……。
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