2話 哀れな男


 僕が次に向かったのは冒険者ギルドだ。一人でなんでもこなせるならいいけど、この【削除&復元】っていう外れスキルじゃそうはいかないからね。


 早速、新たな仲間を見つけるために掲示板に自己アピール文を記して待合室で待機しておく。


 もちろん、自分のスキルについても書くわけなんだけど、そこは当然、自分の重大な秘密をさらけ出すようなものなのでほかの人と同じように上手くぼかす必要がある。『荷物係としては最適なスキルを持ってます!』とでも書いておけばいいんだ。


「――はっ……」


 声がかからないか待ってるうちに、いつの間にか寝ちゃってたみたいだ。やっぱり荷物係にパーティーの一枠は与えられないってことかな。パーティーは最大で5人までだし、荷物専任より戦闘もできるような人が欲しいのは当たり前なのかもね。


 今更故郷の村に戻るわけにもいかないし、どうしようか……。


 僕は小さい頃、両親が離婚して伯母さんの家に引き取られた経緯を持つわけなんだけど、水汲みやら薬草取りやら、朝から晩まで毎日働かされたこともあっていい思い出はあんまりないんだ。それで何度か家出したことがきっかけになり、劣等生だったナセルたち同様に村の落ちこぼれとして認定されることになった。


 絶対に立派な冒険者になって見返してやるって誓ったんだ。だから戻りたくないし、辛抱強く待つしかない。こんな僕でも誰かが必要としてくれるかもしれないから。


「――ちょっといいかい? そこの君が掲示板に書かれてたカインって人かな?」


「えっ!? あ、はい!」


 遂にお呼びがかかった。諦めずに待ってた甲斐があった……。


 片眼鏡をつけた頭のよさそうな男の人だ。見た目的にはいかにも【鑑定士】とか【鑑定眼】のようなスキルを持ってそうな感じ。


 鑑定系のスキルは凄く人気で、色んなパーティーから引っ張りだこになるはずなのに僕を仲間に……? そもそも同ランクじゃないとパーティーは組めないし、自分と同じF級って感じでもなさそうだけど……。


「私が君の今の気持ちを鑑定してあげよう」


「あ、ありがとう……って、え?」


「待っても待っても誰も来やしない……そんな陰鬱な気持ち、だね」


「は、はあ。そうですけど……」


 そんなの今の状況を見れば誰でもわかるだろうに、変な人だな。


「まあそれだけさ。この私が鑑定してやっただけありがたく思ってほしい。独りぼっちの間抜けな君へ」


「……」


 なるほど、冷やかしにきただけか。余裕があるからって感じの悪い人だね。


「ん、怒ったのかな? まあ君と違って私は【鑑定士】っていう最高のスキルを持っているわけでね、喧嘩しても誰も君を庇うようなことはないだろうね」


「そうでしょうね。というか、僕に一体なんの恨みが……」


「恨み? ぶははっ、そんなものはないよ。ただ、からかってあげてるってだけさ。この私が可哀想な君を、ね」


「……余計なお世話ですよ。それに、僕は可哀想なんかじゃないし諦めない気持ちを持ってる。むしろ可哀想なのはわざわざこんなことをするあなたのほうだ」


「はっ、綺麗事を抜かすなゴミが。何が荷物係には最適です、だ。誰にも相手にされないような世間のお荷物でしかないゴミが一丁前に」


「……」


 僕が掲示板に書いた内容はしっかり見たんだね。それにしても、なんでこんな残念な人に優秀なスキルがついたんだろうと思うと頭が痛くなってきた。この頭痛を削除できないかな……って、あれ?


 スッと痛みが抜けていくこの感じ。まさか、こんなものまで削除できるのか? そう思って復元してみると、また頭痛がしてきたので削除することで痛みを消した。偶然じゃなく、スキルを使ったタイミングで頭痛をコントロールすることができている。やっぱり頭痛にも【削除&復元】ができるんだ……ん、男一人女二人の三人組が新たに待合室に入ってきた。


「ジェリック、やっぱりここにいたのか。また新人をからかってんのか?」


「可哀想だからやめなよー」


「いじめ反対っ」


「ぶははっ。ちょっとからかうだけのつもりが、このゴミが反抗してくるもんだからついついヒートアップしてしまったよ。私としたことがね」


「……」


 そうだ、いいことを思い付いた。頭痛にまでスキルが利くなら、もしかしたら自分に向けられたものであれば削除できるんじゃないかな……。


「あの、ちょっといいですかね、ジェリックって人」


「あ? 気安く人の名前を呼ばないでくれないか、ゴミの分際で」


「それはすみませんでした。ゴミとしてジェリック様にお願いがあります。あなたの【鑑定士】スキルで僕のスキルを調べてくれませんか?」


「はあ? 正気なのかあ?」


「それとも、できないんですかね?【鑑定士】スキル持ちってのは真っ赤な嘘だったんでしょうか……」


「こいつ、いじめられすぎてとうとう頭までおかしくなったのか。よーし、お望み通りお前のゴミスキルを周りに公開してやろう。その惨めな効果とともになあ!」


「……」


 まもなくジェリックの足元に小さな魔法陣が出現する。これこそスキルを使ったという証拠で、一回転するとスキルが発動するんだ。僕はそれが回転し終わるタイミングで、自分へ及ぼされたであろう【鑑定士】スキルを削除してみせた。【削除&復元】は足元に魔法陣が出たことすらわからないくらい即座に使えるんだ。


「……あ、あれ……?」


「ジェ、ジェリック、どうしたんだ?」


「どうしたのー?」


「ジェリック?」


「ちょ、ちょっと……トイレ!」


 ジェリックが見る見る真っ青な顔になって駆け出していった。紛れもなく、スキルが使えなくなったことの証だ。本当にあいつのスキルを削除したんだ。ってことは……。


 僕は頭痛にやったときと同じ要領で【鑑定士】スキルを手元に復元すると、それによって自分の状態を開示してみることにした。


 名前:カイン

 レベル:1

 年齢:16歳

 種族:人間

 性別:男

 冒険者ランク:F級


 スキル:

【削除&復元】

【鑑定士】


 ダストボックス:

 頭痛


 こ、これは……凄いや。相手の【鑑定士】スキルを削除できただけじゃなく、復元によって自分のものにできてる。スキルの熟練度が足りないせいか能力値は見られないけど、ダストボックスの中身を確認できる上にその中には頭痛まであった。こんなことならジェリック様に絶望だけじゃなく頭痛もプレゼントしておくべきだったかな……。

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