3話 弾み


「おいセニア、お前、荷物係のくせにそれだけしか持てないっていうのか!?」


 古城ダンジョン一階奥の通路にて、ポニーテールの少女に対してリーダーであるナセルの叱責が飛ぶ。


 彼女が持つことのできる荷物の量が早くもオーバーしたということで、パーティーは二階に上がる途中で帰還せざるを得なくなったからだ。


「はあ……?」


 セニアは新人として入ってきたばかりだったが、いかにも納得がいかないといった様子で勝気な顔をしかめてみせた。


「リーダー……オレはもう荷物がいっぱいで持てないから、いちいち収集品を拾わないでほしいって何度も忠告しておいたはずだぜ? それにオレは【戦士】スキル持ちだし、荷物係専任じゃなく、戦闘の役割も兼ねてる。それはお互いに納得済みのはずだろ……?」


「いやいや、お前、この程度で音を上げてるようじゃ兼任でも荷物係なんて呼べないだろ! 俺だって矢筒を抱えてんだし、重くても少しは我慢しろってこった! おい、ファリム、ロイス、ミミル、みんなも黙って見てないで何か言ってくれよ、この生意気な新人に!」


「ナセル……アレを追放したばっかりなんだから少しは我慢しなきゃ」


「イエスッ、自分もファリムに同意するよ、リーダー。折角アレを追放したばかりなのだから我慢したまえ」


「あたしもファリムさんとロイスさんに同意します。リーダーさん、戦えるだけアレよりはマシですし、もうちょっと我慢しましょうよ」


「……わ、わかったよ。けどなあ、アレは荷物に関してはまったく問題なかったわけだしよ――」


 はっとした顔で口を閉ざすナセル。


「えっ、まったく問題ないって、そんな有能な荷物係がいるのか? すげーじゃん!」


「「「「……」」」」


 セニアの弾んだ台詞に、ナセルたちは気まずそうに黙り込むのだった。




 ◆◆◆




 よーし、やってやるぞ……。


 ギルドに入るまでの自分と、今まさにそこから出ようとする自分はもう別人だった。何故なら、外れスキルだと思ってた【削除&復元】が最高のスキルだってわかったからだ。僕の所有物、または自身に及ぼされるものだと判断されれば、頭痛どころか自分に向けられたスキルでさえ削除、復元できてしまう。


 なんともウキウキで、小さな子供に戻ったような気分だ。これさえあればどんどん強くなれそう……ってことで、僕はまず解体用の短剣を握りしめてフィールドへ向かうことにした。最近、冒険者ギルドでは兎のヘアバンド等の材料になる毛皮を集める依頼が人気で、自分もそれに便乗した形だ。


 正直、今の僕はそういうのを通り越してダンジョンに潜りたいくらい気持ちは高まってるけど、超一流の冒険者、すなわちS級以上を除いてソロでの立ち入りを固く禁じられている。それだけ厳しい場所ってことなんだ。そこに少しでも近づけるために、簡単な依頼を通して着実にレベルを上げておきたい。


「――うあ、いるいる」


 町の外は見晴らしのいい草原が広がっていて、その先に見える森を背景に毛むくじゃらの兎たちが躍動していた。この辺なら弱いモンスターしか出ないから安全に狩ることができるんだ。ただ、僕と同じことを考えてる人もそれだけいるのか冒険者の姿も多かった。


 名前:モッピングラビット

 レベル:3

 種族:動物

 属性:地

 サイズ:小型


 テクニック:

《跳躍・小》


 早速【鑑定士】スキルで兎を調べてみると色んな情報が出てきた。重要なことだけこうして即座に視覚化できるなんて凄いな。人気スキルなわけだ。


「それ――あっ!」


『ムキュキュッ』


 兎に駆け寄って倒そうとしたけど、笑い声のような鳴き声をセットに軽々とかわされてしまう。『跳躍・小』っていう割りに半端ないジャンプ力で、大体2メートルくらい跳んでそうだ。


「当たれえぇっ!」


 それならこれはどうだと、モンスターが跳躍後に落下するタイミングを狙おうとしてるんだけど、身体能力がかなりあるらしくて前後左右にクルッと方向転換して巧みに避けられる有様だった。


「――はぁ、はぁ……」


 うーん、単純に自分のレベルが低いからっていうのもあるんだろうけど、攻撃を当てるのってこんなに難しいんだなあ。僕はモッピングラビットを追い回すのに疲れて両膝に手を置いた。


『ムキュウゥゥーッ!』


「はっ……!?」


 一段と鋭い声がしたので前を向くと、兎が一転して牙を剥き僕に向かって飛び掛かってくるところだった。小型でもあの強い跳躍から繰り出される体当たりをまともに受けた場合、打ちどころが悪いと死ぬこともあるみたいだし、この勢いでぶつかってきたらまずい――って、待てよ? そうだ、あの手があるじゃないか。


『……ムキュッ?』


 高く飛び上がっていたはずの兎は、僕の足元にいた。ぴょこぴょことそこから何度も跳び上がろうとしてるみたいだけどできないのが丸わかりだ。これは……やっぱりあれを削除できたってことだよね。


『ムキャャアァァッ!』


 しきりにジャンプしようとするモッピングラビットを難なく短剣で仕留めると手早く解体して削除し、自分のステータスを確認することにした。


 名前:カイン

 レベル:1

 年齢:16歳

 種族:人間

 性別:男

 冒険者ランク:F級


 装備:

 短剣

 革の鎧


 スキル:

【削除&復元】

【鑑定士】


 ダストボックス:

 頭痛

《跳躍・小》

 兎の毛皮

 兎の肉


「おおっ……!」


 思わず声が出た。やっぱりモンスターが使ってきたテクニックを削除できてる。それを手元に復元してみると、新たにテクニック欄とその下に《跳躍・小》が表示される格好になった。


 テクニックっていうのはスキルの下位互換で、特訓を重ねれば人によっては取得可能なものなんだけど、それでも得意な分野に長い年月をかけてようやく芽が出るっていうレベルなんだ。だからよっぽど必要だと思わないと積極的に取りにいく人は少ない。そういう苦労の結晶みたいなものを一瞬でゲットできるんだから大きすぎる……。

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