第2話
立ち上がろうとしたが力が入らない、親切にも脇を抱えてくれている人がいた。その人を見ると、なんか親しみのある横顔だ。よく見ると何と3年前に他界した妻の「則子」ではないか。
とは言っても、とても若い頃の則子だ。ひっつめ頭でポニーテールだ。則子は昔よくそう言う髪型をしていた。
でも変だ……。
「あれ、則子!どうしたの?」
すると、則子が訝しげな顔をした。
ともかく何かおかしい。だが、則子は私が何を言っているのか皆目分からない風だ。
大体若い則子なんて!
ありえない。夢かも知れないなどとぼんやりと考えていると。
Do you understand English?(英語分かる?)と来た。
とっさに、Yes と答えた。
すると、「大丈夫なの?あなたよろけていたわよ。具合が悪いんじゃないの?」と、典型的な中国語と言うか広東語と思われる訛りのある英語で聞いてきた。
頭が混乱してなんと答えたらいいか分からず口をもぐもぐさせていると。
「あなたどこから来たの?」
「え?僕の事分からない?日本語分からない?」
「何言っているの、分かるわけないでしょう?あなた日本人なの?ここは人通りが多いから、ほらあそこの工事現場の柵に所に腰掛けたら」と、微笑みながら腕を掴んで導いてくれた。
「で、なんであなたの事分からないかって聞いたの?」
「うん、あなたが妻のノリコとそっくりだから」
混乱していて、則子と勘違いしているのに気付きながら答えた。
「そうなんだ!それで、大丈夫なの?ふらふらして倒れそうだったのよ」
「ありがとう。良く分からないけど、年寄りなので混乱して迷ってしまったみたいで。でも、ありがとう。所で今って西暦で何年?」
私は一番聞きたい事を聞いた。
「え?どう言う意味?今年何年かって事?」
「うん」
「1964年だけど‥‥‥」
「え!やっぱり‥‥‥」
「え?やっぱりって?」
「いや」としか答えられなかった。
女は、変なこと聞く人だと言う顔で曖昧な笑いをしたが、その笑い顔も則子そっくりだった。
だが、目の前の女は、則子では無いのは明らかであった。
「それであなたどこに泊まっているの?救急病院と言う程では無いし、通常の病院はこの時間閉まっているしね。そう言えば年寄りだからって、あなた若いじゃないの」
はたと困った。
「民宿」で、油麻地にある高層マンションの一室を借りていると言っても、この時代では何の事やら分からないであろう。困り顔で口をもぐもぐさせていると、彼女が「大丈夫?どこに泊まっているか忘れちゃった?」と、笑いながら優しく尋ねた。
フッとまた則子と話しているような感覚を覚えた。
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