第14話 拝啓 英雄色を好むって本当のようです

 僕のステータスを覗いたケビンさんがその中身を確認してから、いったい何が見えたのかとサイモンさんたちは緊張感に包み込まれているけど、僕が1人不安に駆り立てられている中でケビンさんはボソッと呟いた。


「こんな所でネタバレが起こるとはなぁ……」


「ねたばれって何だ?」


 それに反応したのはサイモンさんで、僕は知っているけど“ネタバレ”の言葉の意味がわからなかったサイモンさんが問いかけたことによって、ケビンさんはその問いに答えを返した。


「それはな、楽しみにしていたことがバレてしまうことだ。サイモンでもわかるように言うと、箱詰めのプレゼントの中身を、開ける前にバラされてしまったことだな」


 それを聞いたサイモンさんが納得顔になるけど、果たしてステータスの何がそんなに落ち込む原因になるのかケビンさんに尋ねて、それに対してケビンさんが事情を知らないのだと気づいたら、喋り出す前に僕へと問いかけるのだった。


「クキはサイモンたちに言ってないのか? 秘密にしておきたいなら黙っておくぞ」


「その……」


 恐らく僕が異世界人であることを指して言っているのだろうけど、そのことで僕が言い淀んでいると、サイモンさんがフォローをしてくれる。


「クキが知られたくねぇってなら、俺たちは別に秘密のままでもいいぜ。秘密の1つや2つ、誰にでもあることだろ」


「……サイモンさんたちにはお世話になっていますし、その……やっぱり隠したままだと後ろめたい気持ちが拭えないので……」


「無理しなくてもいいぞ?」


 サイモンさんたちはやっぱりいい人たちだ。秘密を抱える僕のことをきちんと考えてくれている。だから僕は、そんなサイモンさんたちに応えるためにも、思い切って秘密を伝えることにしたのだった。


「いえ、無理ではありません。ぼ、僕は……本当はこの世界の人じゃないんです!」


 僕が力強くそう告げたんだけど、その決死の覚悟もサイモンさんたちには通じなかったようだ。


「なぁ、この世界って何だ? ここに生きてりゃこの世界じゃないのか?」

「俺に聞くなよ。世界は世界だろ。他国の人間ってことじゃねぇのか?」

「別大陸ってことかしら?」

「別大陸なんてあるの? この大陸しか私は知らないわよ。学校でも習ってないんだし」


「え……」


 サイモンさんたちのリアクションに僕がポカンとしていると、苦笑いのケビンさんがどういうことなのかを説明してくれた。


「まぁ、そういうことだ。この世界の人間にとって、異世界なんてのはごく一部の者しか知らない。フィリア教のトップとかな」


 ケビンさんの告げた内容に反応したサイモンさんが、わからないことを知るためにもそのことを尋ねた。


「ケビンはわかるのか?」


「簡単な話だ。クキはフィリア教が召喚した勇者だ」


「「「「勇者っ!?」」」」


 ケビンさんの発した“勇者”という単語を聞いてしまったサイモンさんたちは、一様に驚きを隠せずにいて勇者について語り始めていく。


「ゆ、勇者って言うとアレだろ?! 魔王を倒して世界を救うって言う……」


「そうだな」


「でも、魔王っていないわよね? いたら魔大陸と戦争になっているもの」


「え……いないんですか? いるから召喚されたんじゃ……」


 僕はマルシアさんの言った「魔王はいない」という言葉に、意味がわからなくなる。ウォルターさんの話だと、魔王を倒して欲しいから召喚したっていう内容だったのに、情報が錯綜しているみたいだ。


 そして、困惑する僕を他所に、オリバーさんたちから次々と魔王はいないという情報が上がってくる。


「俺は魔大陸に魔王が現れたなんて聞いてないぜ」

「俺も聞いたことがないな」

「魔王が現れたらそれこそのんびりしていられないわよ」

「各国をあげての戦争になるものね」


「ど、どうして召喚なんか……」


 サイモンさんたちが『魔王はいない』と口々にしていき、僕が更に困惑をしていると、そのような光景を見ていたケビンさんが面白そうに、顔をニヤけさせて口を開いた。


「魔王ならいるぞ」


「「「「「えっ!?」」」」」


 驚愕の新事実を告げられた僕たちが一様に驚いてみせると、ケビンさんはなんてことのないように答えるのだった。


「目の前にいるだろ」


 ケビンさんの告げた言葉を聞いた僕たちが意味もわからず沈黙していると、ケビンさんは笑いながらその続きを喋り始める。


「俺が魔王だ。フィリア教団が俺を魔王認定して仕掛けてきた戦争が、1年とちょっと前にあった戦争だ」


「「「「「えぇぇぇぇっ!」」」」」


 ケビンさんが自ら魔王と名乗り、あまつさえそれを認定したのがフィリア教団だと知ると、サイモンさんはわけがわからなくなったのか、ケビンさんに問い詰めるのだった。


「ど、どういうことだよ! ケビンのどこがどうなって魔王になるんだ?!」


「俺がセレスティア皇国に流れていた闇金の流れを止めたからな。その腹いせに喧嘩でも売ってきたんだろ」


「金の流れ?」


「旧帝国は腐っていたから、教会がぼったくり価格で民から寄付金を巻き上げていたんだ。だからほとんどの教会は潰した。残ってるのは善良な教会だけだな」


「え……じゃあ、僕たちはケビンさんを倒すために召喚されたってことですか?」


「そういうことだ。だからクキを鑑定した時にネタバレして溜息が出たんだ。次のイベントを楽しみにしていたのに、こんな所でわかってしまうんだもんな。やっぱり無闇矢鱈に鑑定なんてするもんじゃない」


 まさか、僕たちがウォルターさんから倒すように言われていた魔王が、目の前にいるケビンさんのことだったなんて。


 しかもケビンさんの話を聞く限り、悪いのは悪事を働いていた教会を運営する教団側で、ケビンさんにしてみれば、とんだとばっちりを受けているような感じだ。


「ちょ、ちょっと待て……クキ……今、って言ったよな? 勇者はお前だけじゃないのか?」


 僕が色々なことを考えている時に、サイモンさんが僕の言った言葉尻を取って問いかけてきたので、僕はこの際だからと召喚された時のことを話すことにした。


「僕たちは42名でこの世界に召喚されました。クラスメイト40名と、巻き込まれた教育実習生の先生と挨拶回りしていた生徒会長です」


「よ、42!?」

「勇者が42名って相当だぞ!」

「何回魔王を殺すつもりなの!?」

「きょういくじっしゅうせいって何!? せいとかいちょうって何!?」


 僕の伝えた内容にオリバーさんたちは驚きを隠せないようで、興奮しながら口々に言葉にしていた。その中でも、マルシアさんが言ったこの世界の人には聞き慣れていない単語について、ケビンさんが説明のために口を開く。


「教育実習生は先生の見習いみたいなもんだ。生徒会長は全学生の代表みたいなもんだな」


「いや、そんなことよりも! 逃げた方がいいぞ、ケビン! 勇者が42人で攻めてくるんだぞ!」

「いや、クキがここにいるから41人だ!」

「そ、そうよ! 早く逃げないと!」

「ケビン君が殺されちゃう!」


 物語で語られている勇者の強さを知っているオリバーさんたちが、必死になってケビンさんに逃げるようにと説得するが、当のケビンさんは逃げるつもりはサラサラないと答えるのみだ。


「異世界勇者41人だぞ? こんな楽しいイベントを見逃すはずないだろ。知らなければもっと楽しめたけど。あっ、クキはどうする? うちに攻めに来るか?」


 オリバーさんたちが騒いでいた中で、僕にいきなりお鉢が回ってきたから、僕はオウム返しになってしまうけど、聞かれたことをそのまま問い返してみた。


「え……ちなみに攻めたらどうなりますか?」


「殺す」


「――ッ!」


 真面目な顔つきになったケビンさんが簡単に「殺す」と言ったことにより、僕は背中がゾクゾクとしてしまい言い知れぬ感覚に陥ってしまう。


 きっと、ケビンさんは簡単に人を殺すことができるのだ。戦争でもケビンさん1人で大人数相手に立ち回っていたみたいだし、人を殺すことに躊躇いはないだろう。


 そのようなケビンさんの人となりに僕が戦慄していると、ケビンさんは真面目な顔つきから一変、穏やかな顔つきになって続きを話し始めた。


「というのは冗談で、よくてボコだな。悪ければボコボコだ。売られた喧嘩はしっかり残さず買わせてもらう。クキだって不良をやってた昔はそうだったんだろ?」


「ど、どこまで知って……」


「お前が不良になった経緯とかな、誰を尊敬しているとか、誰を目指して頑張っているとか、その他諸々だ。俺の【鑑定】はそこまで見抜ける。ビックリしたか? 【鬼神】九鬼泰次」


「――ッ!」


 久方ぶりに呼ばれた異名と本名を耳にした僕は、目の前にいるケビンさんに対して戦慄を覚える。いったい【鑑定】によって、どこまでの情報を見られてしまったのかと。


「こっちの世界には個人情報保護法なんてもんはないから、訴えることはできないぞ。裁判所なんてものは存在しないし、国のトップがルールっていう至ってシンプルな形だ。絶対王政って歴史の授業で習っただろ?」


「何故そんなに詳しく……」


 ケビンさんは僕の疑問に答えるためかどうかわからないけど、いきなりどこかからバングルを取り出して、その効果を説明をしたら腕に付けるように言ってきた。


 それで僕が付けたのを確認してから、いきなり頭の中に話しかけてきたのだった。


『聞こえるか、九鬼? 応答は頭の中で考えるだけでいい』


(これって、テレパシーとか言われている不思議現象なんじゃ……)


 いきなりのことで驚いていた僕だったけど、とりあえずケビンさんに言われたやり方で、返事を返すことにする。


『聞こえます』


『それじゃあ、九鬼のプライバシーを暴いたということで、俺の秘密も1つ教えておこう。俺は日本で死んだ後、この世界に転生してきた元日本人だ』


『――ッ!』


 ケビンさんの秘密を聞いてしまった僕は、今日1番の衝撃を受けた。早い話がケビンさんの言ったことは、小説でよく目にした異世界転生モノってやつだったからだ。


(実際にあるんだ……異世界転生……)


 僕は異世界転移してきた自分のことを棚に上げて、ケビンさんの身の上話に驚いていると、ケビンさんは話を続けてきた。


『これは俺の身内しか知らない秘密だ。取っておきの秘密だから九鬼も誰かに喋ったりするなよ? 下手したら自分だけじゃなくて喋った相手の命もなくなるぞ?』


『しゃ、喋りません!』


『まぁ、うっかり喋った時は教えてくれ。相手の記憶を消しに行くから』


『え……こ、殺すんじゃ……』


『悪人だったら殺す。そうでなければ記憶を消して、今まで通りの生活を送ってもらう。最初に脅したのは、それだけの秘密だってことを知って欲しかっただけだ』


『わかりました』


 僕が了承の意を示したところでケビンさんは頭の中での会話をやめて、オリバーさんたちにも聞こえるように通常通り喋り始めた。


「そのバングルは記念にやるから、何か困ったことがあったらそれを使って連絡してくれ」


「え……いいんですか? 性能から考えると高そうなのに……」


 とても高そうな代物なのに、簡単にくれると言ったケビンさんに驚いてしまうけど、続くケビンさんの言葉は更に驚きを齎してくるものだった。


「それは俺が作った魔導具だ。買ってないから高くない」


「つ、作った?!」


「俺は魔導具職人でもあるからな。魔導具を作るのは趣味だ。クキが俺を殺しに来るってんなら、返してもらうけど」


「殺すなんて無理です! ケビンさんに勝てる見込みが0%です!」


 ケビンさんを殺すなんてとんでもないと思っていた僕の言葉に、サイモンさんがわかってはいることだけど、当たり前の事実を突きつけてくる。


「まぁ、無理だよな。クキは俺たちにすら勝てないんだから」


 そのような会話を続けていたら、ケビンさんが突拍子もなく、何の脈略もない話をしてきた。


「そういえば、カトレアは俺の嫁になったぞ」


「「「カトレア!?」」」


 カトレアさんという人の名前を聞いたサイモンさんやマルシアさん、それにミミルさんが反応を示していたけど、オリバーさんの反応はイマイチだ。いったいどういった知り合いなんだろうか。


「セレスティア皇国人だったみたいで、戦争の時に戦場で再会した」


「ま、まさか……ボコボコにしたりはしてないよな?」


 サイモンさんが何やら不穏な言葉を口にしていたけど、ケビンさんはそれを否定する。


「するわけないだろ。そのまま捕虜として拉致しただけだ。そのあと戦争中だったけど嫁にしたな」


「そちらの方もお嫁さんよね?」

「多いわよね?」

「前から噂には聞いていたけど、ケビンの嫁さんって何人いるんだ?」


「あぁぁ……この前の戦争で捕虜となった女性兵士を保護したからなぁ……全員となると……200人超えたな」


「「「「「200っ!?」」」」」


 あまりの多さにオリバーさんたちや僕は驚きすぎて、開いた口が塞がらなくなった。奥さんが200人って……全くもって想像がつかない。


「帝国に住んでいない現地妻もいるしな」


「や、養えてるのか?」


「余裕だな。というか、みんな贅沢しないんだよなー高級なドレスや貴金属ってあまり身に付けないし、まぁ俺がそういうケバいのを嫌う傾向にあるからなんだろうけど。農作業とかも普通にするし、店番とかや魔導具作りもやってるな。あとはそのまま兵士を続けたくて騎士になったのもいるし」


「后なんだよな?」

「何故に農作業……」

「店番って……」


 そのような時に母親の件が原因で嫌な思いを心に刻みつけられている僕は、失礼だとは思いながらもケビンさんに対して自身の価値観をぶつけてしまう。


「ケ、ケビンさんはその……奥さんが1人いるのに、更に増やすのは浮気だとか思わないんですか? 不誠実だとは……」


 僕の失礼な質問に対して、ケビンさんは怒るでもなく僕の気持ちも理解した上で、ケビンさんの考えを語ってくれた。


「あぁぁ、クキには相容れない話だったな。そもそもな、浮気って言うのは自分で決めることじゃない。相手が決めることだ。俺の場合は嫁さんたちがそれに該当するな」


「相手が……?」


 ケビンさんの言う浮気の解釈は初めて聞くような内容で、それを聞いた僕が首を傾げてしまうと、ケビンさんはその解釈の説明をしてくれる。


「相手が『浮気された』と感じたら、その時点で浮気だ。どういうことかと言うと、クキがミミルやマルシアと3人で単なる会話をしたとする。それを知らなかったオリバーとサイモンが、あとでそのことを知って『浮気しやがって』と感じたら、その時点で2人は浮気したことになる。本人の意思は関係なくな」


「そんな無茶苦茶な……」


「でもそれが浮気ということだ。本人に浮気のつもりがなくても、パートナーが浮気と判断したら、その行為は相手にとって浮気になるんだよ。クキはただ単に会話をしただけのことを、浮気していると思うか?」


「いえ、話してるだけなら日常会話ですし……」


「そこが人それぞれ違ってくる浮気の境界線だ。『手を繋いだらダメ』、『一緒に食事をしたらダメ』、『2人きりになった時点でダメ』とか、人によって境界線が変わってくる。確実にアウトと誰しもが判断するのは、やってしまった時だな」


「はい。それは僕も思います」


「だが、人によってはそれを許容する人もいる。俗に言う浮気推奨派だな。その理由も人それぞれだ」


「ケビンさんの奥さんたちは浮気推奨派なんですか?」


 僕から問われた内容に対して、ケビンさんは多妻の始まりとなる、ある出来事を語ってくれた。


「元々な、俺は1人の女性と既に結婚の約束をしていたんだ。だけど、その人と会う前に2人の女性から好意を寄せられた。その好意を寄せる相手が次第に増えていくとどうなると思う?」


「誰が奥さんになるか競い出すんですか?」


「まぁ、そうなるよな。だが、この世界は一夫多妻が認められている。それをするかしないかは本人の意思によるけど、わざわざ女性たちが争っているのを見る必要もないだろ? 俺が多妻を受け入れられれば、あとは女性たちの間の問題だ」


 ケビンさんが多妻を受け入れたら、あとは女性たちの問題になると言われた僕は、何故そうなるのかがわからずにケビンさんに問い返すと、それに対してケビンさんは更なる説明を続けた。


「俺を独占しようとすれば俺と結婚できない。多妻を許容すれば結婚できるけど、自分以外の女性が傍にいる。そうなってくると女性たちは、俺と結婚したいから仕方がないかと妥協するようになる。そもそもな話、一夫多妻はこの世界での一般常識だ。女性たちだって夫が多妻になったところで、ちゃんと幸せにしてくれるなら許容するんだよ」


「んー……わかるような、わからないような……」


「クキはあっちの世界から来たし、過去のこともあるから許容しかねるんだろ。郷に入っては郷に従えってわけじゃないが、クキの価値観は同じ勇者たちと分かち合うだけに留めておけ。こっちの世界で『一夫多妻は不誠実だ』なんて喧伝して回ったら、お偉いさんに『不敬罪だ』と言われて殺されるだけだぞ。ここはそういう世界だ。弱肉強食が成り立つ強い者が得をする世界なんだよ」


 ケビンさんから言われた『郷に入っては郷に従え』という言葉によって、僕は腑に落ちないが渋々納得する意を示すと、ケビンさんはケビンさんで最初の質問に答えるのだった。


「ちなみに俺は自分自身で浮気だとは思ってないぞ。浮ついた心じゃなくて、しっかりと相手を愛するからな」


「それは言葉遊びのような気もしますけど、もし奥さんが他の男性と寝たらどうするんですか? 自分が良くて相手はダメってことはないですよね?」


 僕の突っ込んだ質問に対して、ケビンさんは頬をかきながらそれに答えた。


「はは、痛いところを突いてくるな。ちなみに嫁さんが他の男と寝たら、暴れて魔物を殺しまくると思う。そうなるのが嫌だから、俺に対して夢中になるように愛してるんだ」


 僕はその言葉を聞くと隣に座っているセリナさんへと視線を移し、セリナさんは僕の視線に気がついたのか、ケビンさんの言葉を肯定することを口にするのだった。


「ケビンさんに夢中ですから、私は他の男と寝たりしませんよ。貴方がもし女性だったら体験できたかもしれませんね。ケビンさんに1度抱かれると、もうケビンさん以外は目に入らないのです。体全体で愛されていると実感できるのですよ」


「他の奥さんたちもそうなんでしょうか?」


「愚問ですね。ケビンさんから離れられなくなったから、お嫁さんの数が増え続けているのです。それを充分に養えるほどの資産家でもありますし、お嫁さんたちには『好きに生きて構わない』と言って、配慮してくれているんです」


「配慮ですか?」


「先程の話でもあったように、后の中には農作業をする人がいます。これは農作業が大好きなお嫁さんの願いを叶えるために、ケビンさんが農地を用意したのです。更に自分のお店を持ちたいという方の願いを叶える時には、ケビンさんが全て準備をしてそのまま丸ごとお店をあげちゃうんですよ」


 まさに資産家がしそうな配慮を聞いてしまった僕やサイモンさんたちは、開いた口が塞がらない状態となり、ケビンさんの資産力に再度驚いてしまうのである。


「他にはそうですね……酷い目に遭った奴隷の方たちへは、人前に出なくてもいいように魔導具作りのお仕事を与えて、気晴らしができるようにもしていますし、自身の子供だけでなく城下や孤児院の子供たちが満足に遊べるように遊具を作ったりと、色々なことをしているんですよ」


「まさに資産家ですね……」


「そのような方のお傍にいて他の男へ目移りするわけがないでしょう? ケビンさんほどカッコよくて、優しくて、みんなの幸せを願っている人は、他に見たことも聞いたこともありません。私だけでなく他のお嫁さんたちにとっても、最高で最上の旦那様なんです」


 いつしか浮気云々という話よりもセリナさんの単なる惚気話へと移行してしまい、満面の笑みを浮かべて話すセリナさんに「胸焼けしてるんで、もう結構です」とも言えない僕たちは、その後しばらくはセリナさんの惚気話に付き合わされることとなる。


 それからしばらくして、ようやくセリナさんの惚気話がケビンさんによって止められると、この流れを元に戻してはいけないと感じたのか、サイモンさんがどうせだからと僕を鍛えるのに協力してくれと図々しくも頼んでは、マルシアさんからいつものように頭をどつかれてしまう。


 すると、ケビンさんは「久しく誰かを鍛えていないから、たまにはいいかもな」と言って、僕の持つスキルにも興味があるようで、サイモンさんの提案に了承するのだった。


「父さん……どうやら僕は超有名人の英雄に鍛えられるみたい……」


 ケビンさんとの特訓がいったいどのようになるのか想像もつかない僕は、ずっと黙々とご飯を食べているヴィーアちゃんの胃袋が心配になるのであった。

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