第13話 拝啓 規格外の人は所持するスキルまで規格外のようです
ドワンさんに刀の製作依頼をしてからというもの、僕は毎日魔物の討伐に明け暮れていた。とは言っても、オリバーさんたちと一緒なので無理のない範囲に留められている。
報酬に関しては等分を提案したけど、僕の装備品代を稼ぐという名目なので、オリバーさんたちにその案は却下されてしまい、最終的にはクエスト報酬をオリバーさんたちに、倒した魔物の素材の売却代金を僕が貰うという形に収まった。
オリバーさんたちが言うには、下位ランクの冒険者の稼ぎを奪うほど、生活には苦労していないとのことだ。Aランク冒険者の稼ぎは凄いらしい。
そのような日々を送っている中で、今日もクエストを受けるために冒険者ギルドに足を運ぶと、マルシアさんがサイモンさんにコソコソと耳打ちをしていた。
「――じゃない?」
「確かにどことなく面影はあるな……」
「ちょっと声をかけてみるわ」
「お、おい!」
話の端々を取ってみると、どうやら知り合いらしき人物を見かけたようで、サイモンさんの制止を聞かずマルシアさんは受付へと足を進めていく。
それを見たサイモンさんやオリバーさんたちが慌てて後を追うので、僕もそれに倣って後を追う。
そして、ひと足先に受付に辿りついたマルシアさんは、そこにいた男性に声をかけたのだ。
「ねぇ、もしかしてケビン君じゃない?」
「ん?」
反応したってことはサイモンさんたちの知り合いで間違いないのかな。確か“ケビン”って、サイモンさんとマルシアさんの元クラスメイトで、あの救国の英雄って言われている人と同じ名前だよな。つまり、超有名人……
だけど、そのケビンさんがマルシアさんから呼ばれたことで振り向くと、訝しげな表情を浮かべて口を開く。
「……誰だ、お前ら?」
「くっ、確かに久しぶりで忘れ去られていても仕方がねぇけど、と言うよりも、ほとんど会話すらしたことがないっていうのも問題だが、そりゃねぇだろ……」
ケビンさんの発言によりガックリとサイモンさんが項垂れていると、その隣にいたマルシアさんが自己紹介を始める。
「覚えてないかな? フェブリア学院で同じクラスだったマルシアよ。そこで項垂れているのがサイモン」
「…………ん………あっ、ああっ! 代表戦に出てた――」
「そう! その代表戦に出てたサイ「――マルシアか! 懐かしいなぁ……」……モンなん……だけ……ど……」
サイモンさんが思い出してもらえたと思って意気揚々と発言していたけど、その発言に被せてケビンさんがマルシアさんの名前を口にして、サイモンさんはますます項垂れてしまい語尾が萎んでいた。
どことなくサイモンさんが不憫に思えてくる。
「ふふっ、覚えてもらえていて光栄だわ。サイモンはダメみたいだったけど」
「サイモン? そんな奴いたか?」
「本当に覚えてないのか……?」
サイモンさんが不安を隠せないような表情を浮かべて問い返すも、ケビンさんの返答はあっけらかんとしたものだった。
「野郎なんかより可愛い女の子の方を普通は覚えるだろ」
「あら、可愛いって言われちゃったわ」
「ひでぇ……」
ますますガックリと肩を落としてしまうサイモンさんだったけど、ケビンさんは笑いながらサイモンさんに話しかける。
「冗談だ。お前のことも覚えている。熱血剣術バカだろ?」
「……その覚え方もどうかと思うぞ……」
「確か……オリバーだったか? あいつとどっちが熱血剣術バカなのか競ってなかったか?」
「「競ってねぇよ!」」
とても不名誉な競い方をケビンさんから言われてしまったことで、今まで黙っていたオリバーさんも参戦してサイモンさんとともにハモると、それに対して間を置かずにミミルさんとマルシアさんからツッコミが入った。
「「競ってたでしょ!」」
どうにも僕だけ蚊帳の外にいるような疎外感を受けてしまうけど、知り合い同士の会話に初対面の僕が割り込むほど鋼の心臓を持っているわけではないので、ことの成り行きを静かに見守ることにした。
そのような会話を繰り広げているうちに、近くにいた小さな女の子が、オリバーさんたちと会話をしているケビンさんの服を掴んで口を開いた。
「パパ、終わった、カード」
その言葉に反応したのは服を掴まれているケビンさんではなく、その光景を目にしたオリバーさんたちの方だった。
「「「「パ、パパぁぁぁぁっ!?」」」」
「ママ、串焼き、1本」
「「「「マ、ママぁぁぁぁっ!?」」」」
「はいはい、カードはポーチに仕舞いなさい」
「ん」
そして、女の子がギルドカードをポーチに仕舞うと、ママと呼ばれていた女性から串焼きを受け取って頬張り始めたら、余った方の手でケビンさんの手を握る。
その後は受付前でいつまでも騒いでいるわけにはいかないとケビンさんが告げて、併設の酒場で話の続きをすることになる。
それからテーブル席のイスにみんなで腰を下ろしたら、サイモンさんが今までの活動報告っぽくケビンさんに伝えていた。
「――で、卒業後に4人でパーティーを組んで、冒険者になったってわけだ」
「ふーん」
「興味無さそうだな、おい」
確かに興味なさそうな返答であるので、僕は『そこまで仲良くなかったのかな』と、少しだけ思ってしまう。
「妥当な線を行っただけだろ。これで実は学者になりましたってんなら、意外性No.1として驚いたけどな」
「Fクラスの俺が学者になれるわけないだろ」
「まぁそれはともかくとして、そっちの少年は誰だ? 同じクラスってオチはないよな? 明らかに年下だし」
クラスメイトだったサイモンさんが代表として話している中で、ケビンさんはずっと黙ったままだった僕に視線を向けてきた。その視線に射抜かれてしまった僕はビクッと反応してしまうけど、僕の代わりにサイモンさんが軽く紹介してくれた。
「ああ、こいつはクキってんだ。セレスティア皇国の皇都で知り合ってな、今から暑くなり始めるから一緒に北へ行こうって誘って連れてきたんだよ」
「クキ? 変な名前だな」
うっ……確かに九鬼はこの世界からしてみれば、変な名前なのかもしれない。
「ほれクキ、自己紹介しろ。こっちが前にも言ったことのあるケビン君だ」
やっぱり、救国の英雄であるケビンさんで間違いなかったようだ。そして、超有名人を前にした僕は緊張でドキドキしながらも、自己紹介をする。
「は、初めまして! 僕はクキと言います。Dランク冒険者です! ケビンさんにお会いできて光栄です!」
「よろしくの前に……サイモン、君付けはやめろ。野郎から言われるとムズムズする」
「で、でもよぉ、さすがに皇帝を呼び捨てってまずくないか?」
「その役職を言うのもやめろ。俺は今どこにでもいる冒険者なんだ。次に言ったら不敬罪で帝国に連行する」
「げっ! それは勘弁してくれ、子供に合わせる顔がない!」
サイモンさんが連行されると聞いて焦っている中で、待っている間に串焼きを全部食べ終わった女の子が、マイペースさを遺憾なく発揮してケビンさんに食べ物のことを主張し始めた。
「パパ、食べたい」
「ん? 食べたい物があるなら好きなだけ頼んでいいぞ。セリナ、ヴィーアの注文を頼む」
「わかりました」
どうやら女の子はヴィーアという名前で、奥さんの方はセリナという名前みたいだ。
そして、ヴィーアちゃんの注文を代わりにする役目をセリナさんに任せたケビンさんは、僕との途中だった自己紹介を再開させる。
「俺はケビンだ。改めてよろしくな、クキ。それで、クキってのは名前なのか、それとも家名か?」
「よ、よろしくお願いいたします! クキは苗字です!」
ケビンさんを前にして緊張しまくっている僕は黒髪黒目なのもそうだが、うっかり元の世界で使っていた苗字という単語を口にしてしまい、僕はそのミスに気づいていなかったけど、それを聞いたケビンさんの眉がピクリと反応する。
「……クキ」
「はい!」
「お前に【鑑定】を使ってもいいか? 嫌ならやめるが」
「ど、どうぞ!」
確か【鑑定】は名前や年齢、職業とかが見える程度だったはず。緊張して冷静ではない僕は特に気にもせず、ケビンさんから【鑑定】を使われることを受け入れてしまった。
男性 15歳 種族:人間(異世界人)
身長:170cm 体重:62kg
職業:私立珍名高校1年3組の生徒、
隠れアルバイター
【学生】、Dランク冒険者
状態:ケビンを前にして緊張中
備考:神聖セレスティア皇国が行った勇者召喚にて、異世界へとやって来た日本人。【学生】という職業を持っていたために、ウォルター枢機卿から早々に見限られて神殿から追い出される。現在はオリバーたちと臨時パーティーを組んで、ドワンに依頼した刀製作の代金を必死に稼いでいる最中。
クラスカースト
最下位(40位)
Lv.15
HP:220
MP:100
筋力:205
耐久:200
魔力:85
精神:85
敏捷:100
スキル
【言語理解】【勉強道具】
【学習能力 Lv.2】【実践能力 Lv.2】
【植物学 Lv.3】
【格闘術 Lv.1】【剣術 Lv.2】
魔法系統
なし
加護
なし
称号
女性不信
鬼神
異世界人
薬草ハンター
【勉強道具】
勉強をするための様々な道具を顕現できる。
【学習能力】
学習して身につける能力
【実践能力】
学習によって身につけたものを実践する能力
【植物学】
植物においての知識が深くなる。1度覚えたものに関しては忘れない。
女性不信
浮気性の母親が原因で女性に対して不信なところがある。
鬼神
母親の件が発覚して離婚になった時にグレてしまい、やり場のない気持ちを喧嘩にぶつけていき、不良関係者たちからは名前にちなんで『鬼神』と呼ばれ恐れられていた。格闘戦においてステータスが上昇する。
異世界人
勇者召喚が原因で異世界からの渡り人となって付いた称号。
薬草ハンター
来る日も来る日も薬草依頼だけをこなして、いつからか薬草ハンターと冒険者たちの間で広まった蔑称だったが、市場に影響が出てくると蔑称から敬称に変わる。質のいい薬草等を見つけることができる。
「はぁぁ……マジか……」
ケビンが溜息をこぼすと、その様子を見ていた僕は自分のステータスを丸裸にされているとは思わずに、どこか言い知れぬ不安でいっぱいになっていた。
(名前とかを見られただけだよね? 確かめたわけじゃないけど、こっちの世界だとヤスツグ・クキって表示されるだけだろうし、年齢も見られたって問題ない……もしかして、職業か!? 今は冒険者をやっているから、Dランク冒険者ってのを見たのかも。Aランク冒険者のオリバーさんたちといるのに、あまりのランクの低さに呆れ果てて溜息が出たのかもしれない!)
ケビンさんが僕の何に対して溜息をついたのかわからず、見当違いな不安がどんどん募っていくと、サイモンさんも怪訝に思っていたのか、ケビンさんに問いかけていた。
「ケビン、クキの名前を見ただけだろ? そんなに溜息をつくようなものか?」
一般的な【鑑定】の能力しか知らないサイモンがそう言うと、驚くべきことをケビンさんが口にした。その内容とは、ケビンさんの持つ【鑑定】は、一般的に知られている【鑑定】とは違い、詳細な情報が得られるというものだ。
それを聞いたオリバーさんたちは、僕を含めて信じられないかのような顔つきになるが、僕はステータスを全て見られたことに、今まで黙っていた異世界人であることがバレてしまったと思って、益々不安な気持ちでいっぱいになるのであった。
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