第13話 負けたか勝ったか

「そりゃあ!」


 大きく音を立ててピンが全て倒れた。


『perfect!』


「真名すっご!」


「晴人〜いえーい!」


「いえーい!」


 パチンとハイタッチする俺たち。今日は謹慎明けの月曜日の放課後。学校で色々あった真名のストレス発散に楽しく体を動かそうとアミューズメント施設であるAROUND1に来ていた。


「おい、あそこのバカップルヤバくねぇか」


「今さっきから両方ストライクしか出てないって……何もんだよ」


 周りから畏怖の視線を感じる。


「真名、後どれくらいする?」


「うーん……ボーリング楽しいし。折角投げ放題パックにしたんだし最低でもあと8ゲームはしたいかな」


「オッケー……じゃあ次のゲームから勝負ね」


「……その喧嘩買った。負けた方は言うこと何でも聞くって事で」


 鋭い眼光でニヤリと微笑む真名の顔は完全に狩人ハンターだった。


「分かった」


 勝負が始まった。


 ―――



 結局あれから10ゲームしてしまった。


 スコアは俺が2982。真名が……2995だった。


 勝負を終えた時、周りから小さな拍手を貰った。


「はぁ〜楽しかったぁ〜……うふふふふ、何してもらおうかなぁっ」


 ニマニマとこっちを見る真名。


「くっ、殺せ」


「……ふふっ、じゃあ後で命令するから楽しみにしててね?」


 怖いんだが。変な喧嘩売らなければ良かった……


「じゃあ次はカラオケ行こカラオケ!」


 ……よし、チャンスだ!


「……真名、ちょっといいか?」


 過去の真名の反応から分析した結果、真名は俺の目に見つめられるのと痛い俺様口調に弱い。……自分で思ってて気持ち悪いな。だがここで引き下がったら何されるか分かったもんじゃないからな。


「ひょっ、な、なに?」


 真っ赤な顔で変な声をあげる真名。よし、いいぞ……


「そのカラオケでも勝負しない?俺が勝ったら今さっきのボーリングでの勝負無かったことにしてくれないか……?」


「う、うん、いいよ……」


「おっしゃあ!言質とったあ!」


「あっ、そ、それは卑怯でしょ!」


「だって真名に何命令されるか分かったもんじゃないし……何命令するつもりだったん?」


 俺がそう聞くと顔を俯かせて小さな声で


「晴人に、手を繋いでもらおうと思って……」


 と、呟いた。


「ご、ごめん」


 謝った。


「いいよ、晴人が嫌なら……」


「よくないよ!」


「でも、晴人私と手繋ぐの嫌でしょ?」


 うるうると涙目に上目遣いで聞いてきた真名。罪悪感で心が死にそう。


「嫌じゃないよ」


「……ふふっ……なら今すぐ手を繋いでもらおうかなぁっ!見事に私の演技に騙されたね、晴人!」


「えっ」


「さ、さぁ、今すぐ手を繋いでもらおうか!?」


 やけくそ気味に手をグイグイと俺の方に突きつけてくる真名。


「いや、いいけど」


 ギュッと握った。


「ひゃあっ」


「手を握るくらいなら真名にお願いされたらちゃんとするから」


「……う、うん」


「てっきりもっと凄い事を命令されるかと思って」


「え?……凄い事……命令してもいいの?」


「……そういう事はまだ早いから駄目」


 少し早口気味に答える俺を真正面から嬉しそうにいつもは凛々しい顔を緩めて見つめてくる真名。


「ふふっ、分かった。じゃあカラオケ行こ」


「……うん」


 手を繋いで引っ張られる俺。


 なんか最終的に真名に色々負けた気がする。

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