第12話 名前呼び

「ていうか、てめぇはなんで俺の家に居るんだよ!」


「私が明日休みだから泊まっていかないって言ったからよ〜」


「むぅ……雨音が言ったなら居ることを許す!」


 椎名さんのお母さんは雨音さんというらしい。


「だがなぁ!てめぇと真名が恋人等という不埒な関係になる事は断じてぇぐえっ!」


 カエルが潰れたような声を出した椎名さんのお父さん。何が起こったかと言うと椎名さんが自分の父親の脇腹に鋭い手刀を入れたのだ。


「お父さんは余計な事言わないで」


「ひゃい……すみませんれした……」


 這う這うの体で何処かへ逃げていった椎名さんのお父さん。


「あの、お父さん大丈夫ですかね?」


「いいのよ〜直ぐ復活するし。さ、作っておいで」


「はぁ……」


 椎名さんのお父さんを心配しつつも、長年付き添って来たであろう雨音さんの言葉を信じて鶏皮ポン酢を作る事にした。



 ―――





「あらぁ〜美味しそうね」


「……鷹宮さん、私も食べていい?」


 椎名さんの妹が恐る恐るといった様子で近付いてきた。


「あ、いいよ。……え〜と、妹さん名前何かな?」


「私は真帆って言います」


「ありがとう。真帆ちゃんも食べて」


「はい、いただきます!」


 と言ってもこの食材はこの家のものなのだが。……妹っていいな。姉しか居ないから弟か妹がずっと欲しかった。


「……ねぇ鷹宮」


 俺が美味しそうに鶏皮ポン酢を食べる真帆ちゃんを見ていると、不機嫌そうな声が後ろから聞こえてきた。


「ん?どうしたの、?」


 何故かジト目でこちらを睨んでいる。


「……これからは名前で、呼んでくれない?」


「え?いいの?じゃあ、えーと真名さん?」


「……真名って呼んで?」


「えーと、真名?」


 椎名さんの狂気に満ちた眼差しに見つめられ咄嗟に呼び捨てしてしまったが、恋人でも無いのに呼び捨てとか完全にやべー奴じゃないか俺。


「くっふぅ……」


「椎名さん!?」


「おいぃぃ!戻っちゃってるから!」


「あっ、ごめん真名さん」


「……呼び捨ては?」


「えっ、だって恋人でも無いのに呼び捨てするとか完全にやべー奴じゃない?」


「私の事を言ってるのかな?」


「いや、違う違う。真名さんが別に呼び捨てでいいならいいけど」


「呼び捨てで」


「じゃあ……これからは真名って呼ぶね?」


「しゃあ!……私も名前で呼んでいい?」


「いいけど……」



 ―――





【椎名さんのお父さん視点】


「……真名がおかしいんだが……」


 俺は男に名前を呼び捨てにされて雄々しくガッツポーズしている娘を見てそう言った。


「あらそう?あなたも私に名前を呼ばれた時あんな感じだったじゃない?」


 鶏皮ポン酢というアイツが作った料理を美味しそうに食べながら雨音が答える。


「いや、だがな。アイツは女だし……」


「本当の恋は色々な事が盲目になるって事に性別なんて関係ないわよ。それにあの子の根幹は貴方より雄々しいわよ?」


「えっ、そなの?」


「そうよ。……そのうち鷹宮君が襲われないか心配だわ〜」


「……」


 俺はてっきり真名をアイツがたぶらかしていたと思っていたのだが……違うらしい。


「わっ、真名!?」


「晴人〜」


 鷹宮にガシッと抱きつく真名を見て俺は色々と複雑な気持ちになった。


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