第6話 31日目

 今日は、最終日という事で軽めのトレーニングを9時頃からし始め、今はお昼休憩中だ。


「さて……椎名さん。この夏休みで椎名さんは変わった」


「うん」


「いよいよ明日、ざまぁする。藤瀬を見返す日だ」


「うん」


「それでどうする?藤瀬になんて言ってやる?」


「……私、もう実は言う事考えてるんだよね」


「おっ、いいね。どんな感じ?」


「……内緒。明日の楽しみにしててよ」


 片目を閉じてウインクする仕草にドキッとしてしまう。


「オッケー。楽しみにしとくね」


 どんなセリフを藤瀬に言ってやるんだろうか……考えるだけでゾクゾクする。


 と、俺が興奮していると椎名さんが腕をつんつんしてきた。何この動作可愛い。


「なに?」


「……それよりか、あのさ、た、鷹宮。今日って夏休み最終日じゃん?その、さ……ど、どっか行かない!?私の奢りで!あ、海とか!」


「いや、どっか行くのはいいけど奢りって……」


 俺は奢るのも奢られるのも嫌いなのだ。お金ってめんどくさい。


「た、鷹宮はさ!夏休みの間ずっと私のダイエットに付き合ってくれたじゃん!?そのお礼がしたいっていうか……夏の思い出作りたい的なさ……」


「え、でも椎名さんに付き合うの楽しかったし……本来クソ暇な夏休みになるはずだったしね」


「……っ!ええい!もう、ごちゃごちゃうるさい!もうこのままの格好でいいからどっか行くよ!」


「え、ちょっまっ」


 夏休みの間に鍛えられた椎名さんの腕の力で抵抗する間もなく引っ張られる。


 俺は一体どこに行くのだろうか。


 ―――




 約1時間後。電車に乗りバスに乗り、俺と椎名さんは海に来ていた。


「海だー!」


 椎名さんの声が閑散とした海水浴場に響く。


「ここどこ?」


「うちのおばあちゃんの会社が持ってるプライベートビーチ」


 今、まるでアニメに出てくる金持ちキャラみたいなセリフが聞こえた気が……


「そういえば椎名さんって金持ちキャラだったな!」


「ふふ、金ヅルデブス?」


「あっ、ごめん。藤瀬の事思い出させちゃった」


 憎い相手だろうに俺はなんて事を……


「ふふふっ、自虐ネタだよ?まぁ、今の私は鷹宮様のおかげで金ヅルは金ヅルでも金ヅル美人だから」


「いやいや、鷹宮様なんて。椎名さんのやる気と努力と憎しみがあってこそのダイエット成功だから。ほんとに凄いよ。もう金ヅルデブスなんて誰も言えないよ」


「そ、そんなに褒めないで。じ、じゃあとりあえず泳ごう、鷹宮!売店で水着買うから着いてきて!」


「いいけど……今の時期って泳げるの?クラゲとかお盆過ぎたらヤバいって聞いたけど」


「ああ、ここの海は潮の関係かなんかでクラゲがほとんど目撃されないんだって」


「へーって…水着?いいの、俺が見ても」


「いいのっ!そんなこと気にしないから……」


「あぁ、なるほど」


 俺ごときがそういう認識してもらうのは傲慢だったわ。……自分で言ってて悲しくなってきたな。


「じゃあ行こ!」


「うん」


 ―――



「うっわめっちゃ可愛いんですけど…」


「あ、あんまじろじろみないで。もじつくから……」


「ごめん、気持ち悪いよね」


 俺も男なので自然に視線がガッツリ見えてる谷間に行ってしまう。あと少し腹筋が出来てるのが素晴らしい。


「いや、気持ち悪いっていうかそんなことはって、あれ?鷹宮水着は?買ってたよね?」


「俺の水着姿とか気持ち悪いかなって……」


「女々しいか!着ない方が気持ち悪いから!早く着てきて!」


「アッハイ」


 ―――




「お目汚しすみません」


「……腹筋えっろ」


「ん?なんか言った?」


「な、なんでもない」


 なんか腹筋がなんたらって聞こえた。


「それで腹筋がどうしたの?」


「聞こえてんのかよ!そこは聞こえないとこだろうがよ!?」


 何故か口調が変わりキャラ変しながらキレる椎名さん。


「ど、どうしたの?」


「い、いや、た、鷹宮の腹筋がすごいなーって!」


「あぁ、これは親に鍛えられたせいだから」


 脳筋な父に。


「触ら……いや、……鷹宮、泳ごう。滅!」


「あ、待ってよ」


 目を虚ろにさせて海に入っていく椎名さんを追いかける。


 ……滅ってなんだ?


 ―――



 バス乗り場。


「いやー泳いだ泳いだ」


 椎名さんが生き生きとした様子で言う。海に入る前は虚ろだった目も今はキラキラしてる。


「鷹宮ごめん。遊ぶってよりガッツリ泳いじゃったね」


「俺何気に海で泳ぐって初めてだったし、楽しかったよ」


「そう?それならよかった……」


 椎名さんの水着姿も見れたし。


「鷹宮夜ご飯どっかで食べてかない?私が奢りで」


「いいよ。あ、でも自分の分は自分で払うから」


「鷹宮は奢りが嫌いなん?」


「うん」


「じゃあさ、奢りじゃなくてお礼としてならどう?鷹宮はタダで私のダイエットを手伝ってくれたけど、本来なら料金が発生してるでしょ?その分、お礼として奢らせてくれないかな……」



「……そういう事なら分かった」


「やった!じゃさ、1ヶ月ぶりにテリヤキバーガー食べに行きたいんだけど!」


「了解」



 ―――

 


 帰ってきた。もう暗いので家まで送っている。


「美味かった……久々に食うジャンクフード程美味いもんはないと思う……」


 恍惚とした表情で言う椎名さん。


「あはは、そこまで?」


「そこまでだよ」


「凛々しいガチ顔だ……」


「ふふ、あ、ここまででいいよ」


「家デカっ」


「送ってくれてありがとね」


「どういたしまして。じゃあ椎名さん明日、楽しみにしてるからね」


「うん。じゃあお休み、鷹宮」


「お休み〜」


 ああ、明日が楽しみ過ぎる……



 ―――


【椎名さん視点】


 明日、私は言う。

 

 好きだって。

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