第5話 27日目
正直、ギリギリ間に合うか間に合わないかというところ……になる予定だったのだが、まさかここまで早く痩せるとは思わなかった。
「ふっ!」
「……椎名さん、ちょっと休憩しよう」
「……はぁ……はぁ……分かった」
そう言って垂れてきた汗を拭う姿は完全に黒髪の美女。
その姿はまるでファンタジー小説に出てくるクーデレ担当女騎士様の様。
思わず見蕩れてしまっていると、椎名さんが訝しげな顔をしてこっちを見てきた。
「な、なにジーッと見てんの?」
「いや、なんか物語に出てくる女騎士様みたいだなーって」
「ふふ、女騎士様って」
面白そうに笑う椎名さん。
「あ、そうだ。『くっ…!殺せっ!』って言ってみてくれない?」
「え、嫌だよ。ゴブリンにその、襲われる前の女騎士じゃんそれ」
「お願い!昼飯めちゃくちゃ頑張って作るから!」
「……しょうがないな」
「おぉ!椎名様!」
「い、いくよ?」
「うん」
「ッスー……くっ!殺せっ……!」
迫真の演技。羞恥に頬を染めて屈辱に染った視線で相手を睨む。まさにくっ殺だ。
「おぉー……凄い!演劇やってた?」
「……ねぇ、鷹宮」
「ヒッ、何?かな?」
少々の殺意を感じる。
「あんたもなんか演技やってよ。私もやったんだからさ」
「えぇ……まぁ、いいか。何すればいいの?」
「……よし、じ、じゃあ……思いつくドエス彼氏のセリフ言ってみてよ」
「なにそのアバウトな命令は……まぁ、いいけど」
姉が読んでたな……たしか……
「……お前は、俺のモノだ……後でお仕置だからな?」
ドエス彼氏っぽさを出すため椎名さんの耳元でそう囁いてみる。迫真の演技には迫真の演技で対応しなければいけないだろう。
「鷹宮のモノって……お仕置……」
「え?」
椎名さんの目がおかしい。気持ち悪すぎたか?
「あんたら、何やってんの?」
「ひゃあ!?」
椎名さんの後ろから姉が突然出てきた。
それに驚いて椎名さんが萌えキャラみたいな声を出した。
「突然出てこないでよ姉さん」
「あ、お姉さんおはようございます!」
「おはよー。で、何やってたの?」
「俺がドエス彼氏で椎名さんがくっ殺女騎士様になってたんだ」
「何それどゆこと?まぁ、イチャつくのもいいけど他のお客さんも見てるからね」
そう言われ周りを見ると温かい眼差しを御老人の方達から、憎しみの視線を出会いを求めてジムに来た男子から送られていた。
「〜っ」
それに気づいて真っ赤に顔を染める椎名さん。
「いやいや、イチャついてるとか椎名さんに失礼だから……」
「はぁ?あんた真名ちゃんはどう見ても……」
「お姉さんストップ!」
「うおっ」
姉に何故か飛びかかった椎名さん。
「あー……まだ秘密的な感じ?」
「そうです……」
「ごめん、デリカシー無かったわ」
「いえ、こちらこそ飛びかかってすみません……」
今の光景、椎名さんが姉を押し倒している感じ。
「ちょっと、2人とも。百合百合しいんだけど」
「あ、ごめんなさいお姉さん!」
「おいバカ弟、何アホなこと言ってんだ」
「だって美しすぎて……」
姉は俺と似ずツインテールのクソ美人だし、その上に椎名さんが覆いかぶさっているのは色々と素晴らしい。
「あんた百合豚?」
「違うわ。シンプルに美人同士が絡んでたから率直な意見を言っただけ」
「美人……」
なんか椎名さんが座り込んでブツブツ言ってる。
「あんたさぁ。ほんと鈍感」
何言ってんだ
「は?何言ってんの?俺は人の感情の動きには誰よりも敏感だよ?」
「そゆことじゃないんよ。まぁ、自分で気づきなよ」
姉はそう言い、暇そうな受付に戻って行った。
「なにをだよ……あ、椎名さん大丈夫?」
座り込んでいる椎名さんに手を差し出す。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ続きしよっか?」
「うん……」
あと4日、仕上げに入っていこう。
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