第8話
「え?さ、斎藤さんの知り合いなのかい?」
俺と美保が名前を呼び合うと、その男子生徒がそう問いかけてきた。美保はその問いに、気まずそうに答える。
「う、うん……。まあ、ね……」
「あ、あれ?美保さん?」
桜蘭も美保の存在に気付き、驚いている。急に会ってビックリはしたが、冷静になればその男子生徒が何者なのかが分かった。
どう考えても、美保の彼氏に決まってる。これから2人で、プリクラを撮るのだろうか。
そう思うと、少し胸が痛くなる。確かに俺は美保の夫であるのだが、彼氏ではないのだ。
彼氏のことまで、とやかく言える立場じゃない。そこは、美保に自由にさせてあげるべきことだろう。
……それなのに俺は、この光景を見るのが嫌だと思ってしまっている。俺も美保も、愛し合っているわけではないのに。
「お、桜蘭君もいたんだ……」
「うん。信護君と遊んでたところなんだけど……」
「え、えっと……。2人は、斎藤さんとどういう関係で……?」
美保の彼氏は我慢できなくなったのか、そう尋ねてきた。彼氏としては、名前呼びの関係が気になることだろう。
「え、えっと……。それは……」
美保は説明しようと口を開いたが、中々話そうとしない。ここはすぐに話した方がいいだろうと思った俺は、美保の代わって美保の彼氏に説明した。
「クラスメート、だな。仲良くさせてもらってる」
「そうだね」
「う、うん……」
俺の言葉に、桜蘭はすぐに頷いてくれたが、美保は微妙な反応であった。美保は、ただのクラスメートではないと言いたいのだろうか。
しかし、ここで話してしまうのは絶対によくない。相手は彼氏なのだから、もっと慎重にしなければ。
「そ、そうなのか……」
美保の彼氏は納得していなさげだが、取り合えずは頷いてくれた。すると今度は、桜蘭が美保の彼氏に質問をする。
「それより、君は?僕、知らないんだけど……」
「ああ。そっか。斎藤さんと一緒ってことは、中高一貫コースか。僕は、
美保の彼氏は、坂本輝満と名乗った。俺はその苗字を、聞いたことがある気がした。
確か、お土産屋さんで隠れた時に、聞こえた名前だ。やはり彼、坂本は、美保の彼氏で間違いない。
「ああ。よろしく。俺は小田信護だ」
「別コースの人だったんだね。僕は森桜蘭だよ。でも、なんで美保さんが別コースの人と?」
桜蘭が、核心に迫る質問をした。この答えは、この場にいる人の中なら桜蘭以外の者が知っているはずだ。
「そ、それは……。その……」
「あ、あはは……。デート、かな。まあ、一応……」
美保は桜蘭の質問を聞いて目線を下に向けたが、坂本が頬をかきながらそう返した。そんな返事に、桜蘭は当然ながら驚く。
俺はその事実を知っていたので、もちろん驚くことはない。だが、俺は性懲りもなく、また胸が痛くなってしまった。
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