第3話
「市菜に伊野宮?偶然だな」
俺が2人にそう声をかけると、市菜と伊野宮はものすごい剣幕で俺に詰め寄ってきた。そんな2人を前にした俺は、一歩引いてしまう。
「お、お兄ちゃん!この人、誰!?」
「せ、先輩!い、今、彼女って……!」
市菜と伊野宮がそう言ってきたので、俺は桜蘭について説明しようとする。だが、それよりも前に、桜蘭が腕を絡めてきた。
「ねえ信護君。この2人、知り合い?」
「ん?ああ。そうだけど……」
なぜ桜蘭は、腕を絡めてきたのだろうか。今のところ、そうする必要が見当たらないんだが……。
「あ、お、小田市菜です!この妹です!こっちは、クラスメートの伊野宮慕丹ちゃん」
「おい。このとはなんだ、このとは」
市菜がそう桜蘭に言うと、伊野宮も少し頭を下げる。俺は市菜の言い方に文句があったので、そこを指摘した。
「そ、それで!うちの兄とはどういう関係なんですか!?」
だが市菜は、俺のそんな指摘を無視して桜蘭に問いかける。そんな市菜の質問には、伊野宮も何度も頷いていた。
桜蘭は俺と腕を組んだまま、チラリと俺の顔を見上げてきた。そして市菜と伊野宮の方に向き直って、口を開く。
「僕は、森桜蘭っていいます。信護君の、彼女です。よろしくね?」
「「……え?」」
「や、やっぱりそうなんですか!?」
桜蘭が放った言葉に、俺と伊野宮が同時に疑問の声を出す。市菜だけは、桜蘭の言葉を受け入れていた。
「うん。そうなんだ。信護君の妹さんに会えて、嬉しいな」
桜蘭は俺と腕を絡めたまま、笑顔で市菜にそう告げた。一体どういうことなのだろう。桜蘭は男だし、俺たちは付き合っていないというのに。
……ああ。なるほど。そういうことか。桜蘭は面白がって、こんなことをしているのだろう。
確かに前に二人で遊んだ時も、カップルに間違えられたのだ。ここまでになると、面白くなるのも分かる。
「う、うわぁ……。ま、まさかお兄ちゃんに、こんな可愛い彼女が出来てたとは――。……はっ!」
市菜が桜蘭の笑顔を見て頬を少し赤く染めたが、市菜はすぐにそれを引っ込めて視線を伊野宮に移した。そんな伊野宮は、プルプルと震えながら俺に近づいてくる。
「……どういうことですか?」
「い、伊野宮?ど、どうした……?」
「どうしたもこうしたもないです。そこの方と、付き合ってるって聞こえたんですけど、嘘ですよね?」
俺の目の前まで近づいてきた伊野宮は、更に詰め寄りながら俺にそう問いかけてきた。俺は引きながらも、伊野宮に応答していく。
「そ、それは、だな……」
「まさか、本当なんてこと、ないです、よね?」
「しゅ、修羅場かしら……?」
背後から、店員のそんな呟きが聞こえてくる。傍から見ればそう見えるのかもしれないが、勘弁してほしい。
これ以上は、もうもたない。面白がっているであろう桜蘭には悪いが、伊野宮が大分怖くなっているし、早めに真実を言ったほうがいいだろう。
「あ、ああ。桜蘭とは、付き合ってない」
「本当、ですよね?」
「あ、当たり前だろ!桜蘭は、男なんだから!」
「「「……え?」」」
俺が放った真実に、市菜と伊野宮だけでなく、タピオカミルクティーを渡してくれた店員の人も驚いてしまっていて、そんな声しか出せていない。それから少しの間、場が固まってしまった。
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