第52話

 開会式も終わり、体育祭が始まった。まずは、クラス団体で行う競技から始まっていく。


 俺たちはすでにその団体競技を終え、また自分たちの席まで戻ってきている。俺たちがやったのは台風の目で、何とか1位を取ることができた。


 だが、この体育祭は団対抗戦なので、俺たちの団が最終的に勝たなければいけない。後の協議を見ていくと、俺たち赤団は僅差で2位だった。


「2位か……。まあ、まだ始まったばかりだしな」


「まだ団体競技も残ってるし、これからいくらでも逆転できるしね」


 美保とそんな話をしていると、借り物競争に参加する人は集まってください、というアナウンスがあった。それに、心南と照花が反応する。


「あ、アタシたちじゃん」


「そうだね!行こっか!心南ちゃん!」


「おー!頑張れよー!」


 心南と照花がそう言って立ち上がると、すぐに勝が応援を送った。そんな勝に続いて、他の皆も応援を送くっていく。


「頑張って。心南ちゃん、照花ちゃん」


「頑張れ。照花、心南」


 それに続いて、美保と俺も応援した。すると、心南と照花から言葉が返ってくる。


「うん!頑張るぞ~!」


「ま、任せて……!」


 照花はこぶしを突き上げて、やる気を示した。心南は力強く答えてくれる。


 他にも借り物競争に参加するクラスメートは少なからずいて、皆に応援されながら、集合場所へと向かっていく。


 そんな人たちと共に、心南と照花は去っていった。精一杯、二人の応援をするとしよう。


「……にしても、借り物競争か。この競技、指定されたものを借りて持ってくるっていう競技だが……。毎年、結構えぐいお題もあるんだよな……」


「……おい勝。言うなってそれ。不安になるだろ」


 そうなのだ。この学校の悪しき伝統の一つなのだが、借り物競争に時折、めちゃくちゃなお題が書かれていることがあるのだ。


 そのお題は様々だが、去年実際にあったヤバいお題を実際に上げると……。


【憧れの先生】


【カップル】


【自分の恋人】


【好きな人】


 例を上げるだけでも、これだけのものがあった。今上げた例は、去年の体育祭で盛り上がったお題たちだ。


 まず、【憧れの先生】だが、ある男子生徒がわざわざ保健室の先生を連れてきた。そこまではそこまで問題ないように思えるが、インタビューで問題が起きたのだ。


 どこに憧れているのですか、という質問に、その男子生徒はあろうことか、告白まがいのことを言ってしまったのだ。当然断られたのだが、会場が爆笑に包まれてしまい、次に行くまでかなりの時間がかかってしまった。


【カップル】は自分の恋人という意味ではなく、他のカップル二人を連れてくるというお題だったのだが、連れてきたカップルが本当にカップルである証明にキスをしたのである。連れてきた男子生徒には恋人がいなかったため、羨ましそうな、妬ましそうな目で見ていた。


 その男子生徒が、俺にはとても哀れに見えた。あれも中々な衝撃があったものだ。


【自分の恋人】は、【カップル】と起きたことはそこまで変わらない。ただ、【カップル】のお題の後だったので、複雑なものがあった。


 そして、1番の問題が起こったのが、【好きな人】というお題だった。これも男子生徒が引いたのだが、連れてきた女子生徒に告白したのだ。


 だが、あっけなく玉砕。あれ以上に人が可哀そうに見えたのは、そうそうない。


 一応この競技では、引き直しは可能なのだが、体育祭という行事に舞い上がって、行動に移してしまう人がいるのだ。今年は、そんな問題が起きないことを願う。


 ……そもそも、そんなお題を入れなければいいのだが、その願いは届かないであろう。もはやこれは、借り物競争と呼んでいいものだろうか。


 俺がそこまで考えてため息を吐くと、団体競技が終わり、これから借り物競争に入るというアナウンスが聞こえた。俺がスコアボードを見て見ると、我らが赤組は未だ2位という順位だった。


 だがその差は、先程よりも開いてしまっている。次の借り物競争で追い上げたいところだ。


 するとぞくぞくと、心南と照花を含めた借り物競争に参加する面々が、会場に入場してくる。俺は改めて、心南や照花たち赤組の選手たちに心の中で頑張れ、と言うのだった。

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