第51話
体育祭の会場に着いた俺と美保は、自分たちのクラスのブースへと向かっていく。すでに多くの生徒も来ており、それぞれ席に座っていた。
俺と美保が自分たちのクラスの所に着くと、もう勝に照花はついていた。俺たちは二人の近くの席に腰かける。
「おはよう勝。羽木」
「照花ちゃんに柴田君。おはよう」
「おう。おはようさん。二人とも」
「おはよ~!」
挨拶を交わした俺たちだったが、他のクラスメートもいるので苗字で呼び合う。まだ、名前で呼べるようになっていないのだ。
照花の話では、今日実行するらしい。イベントごとの時の方がやりやすいからだそうだ。
「ついに体育祭だね~!ほんと楽しみ!」
「そうだな。楽しもうぜ」
照花が笑顔で言った言葉に、勝も口角を上げながらそう言う。俺と美保もまた、小さく笑みを浮かべた。
やはり、普段は勉強ばかりの学校なので、こういう行事は楽しまなければ損だ。珍しいことなのだから。
「あれ?もう結構そろってるじゃん」
「あ、心南ちゃん!おはよ~!」
「高畑か。おはよう」
「う、うん。おはよう小田」
俺たちに続いてここにきたのは、高畑だった。俺が高畑に挨拶すると、高畑も挨拶を返してくれる。
すると、そんな高畑に続いて続々とクラスメートが集まってきた。桜蘭に利光、秀明もである。
「おはよう。今日は一緒に頑張ろうね」
「おはよう」
「おはよー!」
「おう。おはようお前ら」
俺は挨拶をしてきた3人に、きちんと返す。その3人もまた、普段よりも楽しそうな表情をしていた。
「おーう。おはようさん。桜蘭に利光に秀明」
「……そういえば私たちって、男子たちは男子たちだけ名前で呼んで、私たちは私たちで名前で呼んでるだけだよね?仲良くなってきたし、名前で呼ばない?」
ここで、照花が名前呼びのことを切り出した。すると勝がすぐに、それに反応する。
「お、いいんじゃねえの?」
「じゃあ、勝君でいいかな!」
「おう。よろしくな、照花」
まずは勝と照花が、皆の前で名前呼びをしてくれた。俺と美保も、これに続いていきたい。
この後、照花がふってくれるはずなので、それを待つ。だが照花は俺の方ではなく、高畑の方を見た。
「ほら!心南ちゃんも名前で呼んだら?小田君のこと!」
「「え?」」
俺と高畑の言葉が重なった。高畑は急に呼ばれてびっくりしたのだろうが、俺としては美保じゃなかったことに驚いたのだ。
予定では、俺と美保のはずだったんだが……。まあ、呼べるようになるならなんでもいい。
「ちょ、ちょっ!?照花!?そんな、急に言われても……!」
「大丈夫大丈夫!名前で呼ぶだけだから!」
「そ、そんなこと言っても……!」
高畑はそう言いながら、俺の方をチラリと見てくる。俺はそれに、疑問符を浮かべた。
もしかすると、高畑は俺を名前で呼んでいいのかどうか分からないのではないだろうか。まあ、呼びたくないという可能性もあるのだが……。
「俺は名前で呼ばれても大丈夫だぞ。呼びたくないなら別だが……」
「そ、そうじゃないから!」
「じゃあ、呼べるよね~?」
「う、うう……」
俺の言葉を、高畑がすぐに否定する。だが、そうすると照花が煽るようにニヤニヤしながら高畑に聞いた。
高畑はそんな煽りを受けながら、俺から視線を外す。そして息を大きく吸い込んで、吐いた。
「信、護……」
高畑は頬を赤く染めながら、俺のことを名前で呼んでくれた。そんなに恥ずかしそうに言われると、こっちも恥ずかしくなってくる。
「お、おう。よ、よろしく。……心南」
「う、うん……」
俺もまた照れながら、高畑を名前で呼んだ。俺の名前呼びを聞いた心南は、返事をしながら俺から完全に視線を逸らした。
恐らく、もっと照れてしまったのだろう。俺も今、とても照れてしまっている。
だが、これでようやく美保のことを名前で呼べるようになった。俺は恥ずかしさを抑えつつ、美保と照花を名前で呼ぶ。
「じ、じゃあ、美保と照花も、よろしくな」
「うん。よろしくね?信護君」
「はーい!信護君、よろしく~!」
こうして無事に、俺たちはまず一つ、この日の目標を達成することができた。そしてもうすぐ、多くの目標がある体育祭が、始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます