第33話


「パパ、ママ。この人たち、だあれ?」


 しばらくの間沈黙が続いていたが、まるちゃんが勝と羽木を見つめてから俺と美保に問いかけてきた。だが、その呼び方が良くない。


「パ、パパァ!?」


「マ、ママって……!?もしかして美保ちゃん、産んだの……!?」


 勝と羽木が、とてつもない誤解をしている。どうやら、俺と美保の間に生まれた、本当の娘だと思っているようだ。


 もし本当にそうだとするなら、少なくとも中学の頃には生まれていないとおかしい。少し考えれば、ありえないことが分かるはずだ。


「ち、違う!頼むから、落ち着いてくれ!」


「そ、そうだよ!ありえないことぐらい分かるでしょ!?」


 俺と美保は必死の形相で勝と羽木に訴える。俺たちの反応を見た勝と羽木は、互いに顔を見合わせた。


「い、いやでも……。ゼ、ゼロではないよな?」


「う、うん。ゼロでは、ないよね?」


「ゼロに決まってんだろ!」


「ほんとだよ!」


 勝と羽木の可能性の話を、俺と美保はバッサリと切る。中学の頃に、に、妊娠していたら、一発で分かるはずだ。


 それから考えても、可能性はゼロなのだ。俺と美保の間に生まれた子供という線は。


「ま、まあ、そうか……。じゃあ、なんで……?」


「そ、それは……」


 勝にそう聞かれたが、俺はすぐに答えることはできない。話しにくいことが大半だからだ。


 まるちゃんとの出会いはすでに話したとは思うが、それがこの子ということを勝は知らない。更に、それより問題なのが美保の話だ。


 美保が児童養護施設に住んでいることは、学校の生徒の中で恐らく、俺以外に知っている人はいない。このことを、美保は秘密にしているはずだ。


 この話は、俺も誰にも言わないと約束した。だから、勝と羽木に話すことは出来ない。


 でも、このことを話さないで俺たちの関係を話すのは難しい。それに、まるちゃんが聞いているところでは話したくないので、この場で説明することも出来ないのだ。


 一体、どうすればいいのか。俺がそんな風に考えて迷っていると、美保が俺より先に口を開いた。


「……ごめん。今は、話せないの。でも、絶対今度話すから。お願い……」


「……今話せない、理由があるんだよね?」


「うん……。ごめんね……」


 美保がまるちゃんをチラリと見てから申し訳なさそうに、羽木にそう告げる。すると、羽木はふう、と息を吐いて、勝の方に向き直った。


「……勝君。今日は、遠慮しておこう?私たちだって、遊びに来たんだし」


「……そうだな。事情もあるみたいだし、な」


「勝、羽木……。ありがとう……」


「ありがとう照花ちゃん、柴田君」


 羽木と勝の言葉に、俺と美保は感謝を伝える。ここで追求しないでいてくれることは、本当にありがたい。


 だが、今度必ず機会を作って納得がいく説明をしなければ。向こうは聞きたいはずなのに、待ってくれるのだから。


「いいよっ!それに、一方的に話を聞くだけじゃなくて、こっちも話すから!」


「ま、見たらわかると思うけどな。取り合えず、また連絡するから。それでいつか決めようぜ」


「ああ。分かった」


「パパぁ……。ママぁ……。この人たち誰なのぉ……?」


 俺たちだけで話を進めていると、まるちゃんが泣きそうになりながら俺と美保に問いかけてきた。ちゃんと答えなかったから、悲しませてしまったのかもしれない。


「わ、悪いまるちゃん!この人たちは、パパとママの友達、だな」


「パパとママの、お友達?」


「そうだよまるちゃん。とっても、優しい人たちなの」


「ちょっ!やめろよ斎藤……!ハズイだろ……!」


「そ、そうだよ美保ちゃん。もう……!」


 俺と美保が勝と羽木のことをまるちゃんに説明すると、勝と羽木が恥ずかしがった。そんな話を聞いたまるちゃんは、勝と羽木に自分の名前を告げる。


「パパとママと家族の、まる……」


「まるちゃんか。よろしくな。俺は柴田勝。信護、えっと、パ、パパとママの、友達だ」


「よろしくねまるちゃん!私は羽木照花だよ!私もまるちゃんのパパとママと友達なんだ~!」


「……うん!よろしくなの!」


 勝に羽木と話したまるちゃんは、笑顔になって返事をした。どうやら、打ち解けることができたようだ。


「じゃあ、俺たち行くわ。またな」


「またね~。今度、ちゃんと話そうね!」


「ああ。またな」


「うん。またね」


「バイバーイ!」


 勝と羽木は俺たちに別れを告げて、この場から離れていく。勝と羽木が見えなくなってから、俺と美保は息を吐いた。


「……俺たちでも相談してから、勝と羽木に話そうな」


「そうだね……」


「パパ、ママ。ソフトクリーム、食べないの?」


「「え?あっ!」」


 まるちゃんに指摘された俺と美保は、自分のソフトクリームを見る。手は汚れてはいなかったが、すでに少し溶けてきていた。


 俺と美保は、慌てて自分のソフトクリームを食べ始める。まるちゃんはすでに、全て食べ終わっていた。


 ……そういえば羽木、勝の事名前で呼んでたな。俺たちの前では、苗字呼びだったはずなのに。


 それはつまり、そういうこと、なのだろうか……。

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