第34話

 ソフトクリームを食べ終えた俺たちは、金華山ロープウェイの建物から外に出る。もう集合時間である午後3時に近づいてきているからだ。


 集合場所に着くと、すでに長井さんの班が戻ってきていた。長井さんは俺たちに気付き、手を振ってくれる。


「おかえりなさ~い。あ、何か買ったの?」


「うん!パパに買ってもらったの!」


「あら、そうなの?よかったねぇ~」


 長井さんはまるちゃんが持っている袋を見ながら、そう言った。まるちゃんが嬉しそうに答えてくれたので、俺も嬉しくなる。


 すると、ぞくぞくと他の班も帰ってきた。帰ってきた子供たちは、皆楽しそうにしている。


 帰ってきた班の大人たちが集まり、人数の確認や班の確認をし始めた。迷子になっていないかどうかなどを確かめているのだろう。


「……はい。分かりました。皆~!今から帰るから、はぐれないようにね~!」


「「「「はーい!」」」」


 長井さんの声掛けに、子供たちがそろって返事をした。そして、大人たちに続いて歩き出す。


 俺たちは行きと同じように、最後尾についた。するとそこに、長井さんがやってくる。


「な、長井さん。ここにいていいんですか?」


「ええ。私は後ろから見なきゃいけないから。それより、ありがとう。まるちゃんに、何か買ってくれたんでしょう?」


「あ、はい。まあ……。まるちゃんにも、楽しんでほしかったですし」


 俺はまるちゃんの方を見ながら、長井さんにそう告げた。長井さんとしても、まるちゃんに楽しんでほしかったのだろう。


 長井さんも俺と同じように、まるちゃんを温かい目で見ていた。そのまるちゃんは、美保と手を繋いで笑顔で歩いている。


「……そういえば、美保ちゃんも何か持ってるのね。何を買ってたの?」


「あ、それはお菓子です。皆で食べれるものが欲しいって言ってたんで、買いました」


「え?み、美保ちゃんの分も買ってくれたの?」


「は、はい。そうですけど……」


 も、もしかして、買ってはいけなかったのだろうか?でも、まるちゃんのに関しては何も言われなかったし……。大丈夫、だよな……?


「……本当にありがとう。小田君。二人とも、楽しめたと思うわ」


「い、いえ。俺も、楽しかったですし」


「うふふっ。家族全員で楽しめたみたいで、良かったわ」


「そ、そう、ですね……」


 未だに、美保とまるちゃん以外からそんな風に言われるのは慣れない。だが、楽しめたのは間違いなく事実だ。


 いくつかのハプニングはあったが、いい出会いもあったし、本当に来てよかった。だが、療心学園に帰ったら美保と話さなければいけないことが多くできた。


 どうにかして、美保と二人きりにならなければ。他の人に聞かれる場所では話せない。


 そう思って美保を見ていると、長井さんがニヤニヤとしていることに気付いた。俺が美保ばかり見ていたからだろうか。


「どうしたの小田君。美保ちゃんばっかり見ちゃって~」


「え、い、いやその……。少し、話したいな、と……」


「話したい?あっ!そっかぁ~!まるちゃんがいない方がいいのね?」


「え!?な、なんで……!?」


 長井さんにずばりと言い当てられた俺は、驚いて言葉が出なくなる。まさか、ここまでドンピシャに当てられるとは思わなかったからだ。


 な、なんで長井さんは、まるちゃんがいない方がいいと分かったのだろうか。そんなそぶりを見せたつもりはないのだが……。


「うふふっ!したいんでしょ?こ、く、は、くっ」


「……は!?」


 こ、く、は、く?こくはく……。告白!?


 そ、そんなことするわけないだろ!?た、確かに美保は妻(仮)ではあるけど、彼氏もいるんだぞ!?


「ち、違いますよ!話したいことがあるのは、本当ですけど……」


「あら、そうなの?じゃあ、美保ちゃんと変わってくるわね」


 長井さんはそう言って、美保とまるちゃんの元まで行って、まるちゃんの手を取った。そして美保はまるちゃんから手を話して、俺のところまでくる。


「信護君、どうしたの?長井さんが、信護君が話したいことがあるって言ってたけど……」


「あ、ああ。今日、色々とあっただろ?そのことについて、話したくて」


「……そうだね。でも、他の人に聞こえそうな今じゃ、話せないでしょ?どうするの?」


 そう。そこなのだ。今から療心学園に戻るが、その道中では詳しい話が出来ない。療心学園に戻った後で、二人で話せる場所で話したいのだが……。


 そうだ。療心学園に住んでいる美保なら、いいところを知っているかもしれない。


「なあ美保。帰った後で、二人で話せそうなところないか?」


「うーん……。療心学園の中なら、そうだなぁ……」


 俺がそう聞くと、美保は手を唇に持っていって、考える素振りを見せる。療心学園は大きいので、色々な場所がありそうだが……。


「あっ!じゃあ、私の部屋で話す?1人部屋だから、聞かれる心配はないと思うよ」


「……マジ?」


 美保が放った言葉に、俺はそんな一言しか話せなかった。なぜなら、初めての経験だからだ。


 どうやら療心学園まで戻ったら、俺は人生で初めて女子の部屋に入ることになりそうだ。……妹である市菜を除いて、だが。

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