第24話

 部屋の中に入ると、多くの子供に療心学園の職員と思われる大人たちが大勢いた。俺たちはその人たちの視線を一斉に受けたが、そそくさと端の方へ移動していく。


「……はい。じゃあ、全員そろったみたいなので、しおりを配りますね~」


 俺たちが端の方に着くと、長井さんがそう言ってしおりを配りだした。美保たち療心学園に住んでいる人は当然として、俺にもしおりが渡される。


 だが、まるちゃんの分はなかった。恐らく、まるちゃんのしおりを俺が持っているのだろう。


 俺はそのしおりで行き先を確認しようとした。しかしその前に、長井さんが話し始めた。


「いった通り、班ごとに私たち誰かひとり付いて行くからね~。じゃあ、早速出ましょうか!」


「「「「はーい!」」」」


 すぐに出ることになり、俺がしおりを見る余裕はなかった。皆がどんどん出ていく中、長井さんが残って俺たちに近づいてくる。


「本当はまるちゃんにも付けないといけないと思うんだけど、美保ちゃんと小田君に任せるね。まるちゃんが一番懐いているの、二人だし」


「うん。ありがとう長井さん」


「いいのいいの。その代わり、絶対そろって戻ってくること!家族なんでしょ?」


「はい……!」


 長井さんは伝え終えると、付いて来てね、と言って外に向かって歩き出した。俺たちもその後を追って、手を繋いだまま歩き出す。


「な、なあ美保。自由行動って言ってなかったか?」


「ああ。それね。高校生は自由行動でいいの。それに、まるちゃんのことを任せてもらったんだ」


「なるほどな……。じゃあ、絶対守らないとな。まるちゃんも、美保も」


 俺がそう言うと、美保が顔を赤くして口をパクパクとさせた。前からは驚いている長井さんの声が聞こえてくる。


「まあ!夫らしいセリフねぇ~!ウフフッ」


「も、もう!そういうのはぁー!」


「ねえまるちゃん?パパ、カッコいいねぇ~!」


「うん!パパ、すっごくカッコいい!」


 長井さんがそうまるちゃんに聞くと、まるちゃんは躊躇いなく頷いた。そう言われると、とても恥ずかしくなって顔が赤くなるのがわかる。


「い、いや……。そんなに言わなくても……」


「なんで?パパ、カッコいいよ?ねえママ!」


「えっ!?そ、そう、だね。パパはカッ、カッコいい、ね……」


 まるちゃんの問いかけに、美保は辛うじて言葉を返した。美保は俺に視線を向けず、下に向けて答えている。


 そんな美保を見ると、こっちも恥ずかしくなってくる。その、答えも相まって。


「そ、そう、か?あ、ありがとな……」


「う、うん……」


「パパもママも、顔真っ赤ー!」


「「ちょっ!?」」


 俺が照れながらもそう返すと、美保が頷いてくれた。だが、まるちゃんのそんな指摘によって、俺たちは驚きながらまるちゃんの方を向く。指摘されたのが恥ずかしかったのだ。


「ふふふっ!仲のいい家族ねぇ~!でも外に行かなきゃいけないから、まず靴を履いてね。ここから歩くよ~」


「あ、わ、分かりました……」


 俺と美保は顔を赤くしたまま、それぞれ靴を履く。まるちゃんは長井さんに、靴を履かせてもらっていた。


 靴を履き終えて療心学園から出ると、すでに療心学園に住む人たちが並んで進んでいる。俺たちもまた、長井さんに続いてその後ろから歩き出した。

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