第25話

 しばらく歩いていると、住宅街を抜けて木々が見えて来た。その奥には山がある。


「……公園、だよな?」


「正解っ。今日の行き先は、岐阜公園だよ」


 美保の言う通り、行き先は岐阜公園だった。その先の山には、岐阜城がある。


「公園?パパとママと遊べるの?」


「ふふっ。そうだよ。楽しもうね、まるちゃん」


「うん!楽しみ!」


 どうやら、まるちゃんは喜んでくれたようだ。その事実に、俺は安心して息を吐いた。


 美保もまたそんなまるちゃんを見て、笑顔を浮かべていた。俺もまた、まるちゃんの喜ぶ顔を見て笑みがもれる。


 公園に入った俺たちは、金華山ロープウェイと書かれた建物の近くで止まった。このロープウェイに乗れば、岐阜城に近づくことができる。


「ここから班行動になりまーす!午後3時にこの場所に集合ね!じゃあ、行ってらっしゃーい!」


 長井さんのその言葉を皮切りに、ぞろぞろと班ごとに移動し始める。長井さんも班を持っているらしく、その中には純也君もいた。


 長井さんは俺たちに一つウインクをしてから、班の子供たちを連れて去っていった。その班の一人である純也君は、俺を睨みながら長井さんに付いて行った。


「え、えっと……。これから、どうするんだ?」


 この場に残されたのは、俺と美保とまるちゃんの3人だけだった。俺は美保に、そう尋ねる。


「うーん……。自由だから、どこに行ってもいいんだけど……。まるちゃんは、どこに行きたい?」


 美保はまるちゃんに、どこに行きたいのかを聞いた。確かに、まるちゃんを楽しませようとするなら、まるちゃんに決めてもらうのが一番だろう。


「あれ!まる、あれに乗りたい!」


「あれ?」


 まるちゃんが指差した方向を見ると、そこにはロープウェイがあった。恐らくまるちゃんは、ロープウェイに乗ったことがないので気になるのだろう。


 まるちゃんがロープウェイに乗りたいなら、まずはそれに乗ろう。確か、上にはご飯を食べれるところもあったし、リス村もあったはずだ。


「じゃあ、乗りに行こうか。美保もそれでいいか?」


「うん。まるちゃんが乗りたいって言ってるし、いいんじゃないかな?」


「わーい!早く行こ~!」


 まるちゃんがそう言うので、俺と美保はまるちゃんと手を繋いで金華山ロープウェイと書かれた建物の中へと入る。中に入って、ロープウェイ乗り場に向かった。


 その道中、まるちゃんがお土産屋に目を奪われていた。何か欲しいものでもあったのだろうか。


「どうしたまるちゃん?なにか欲しいものがあったのか?」


「気になるの、いっぱいある……」


「また後で来よっか。戻ってきたらいいだけだからね」


「うん……」


 美保の言葉に頷いたまるちゃんであったが、どうやらまだ気になるようだ。明らかに目線がお土産屋の方に向いている。


「欲しいのがあれば、買ってあげるぞ」


「え!?いいの!?」


「ああ。だから、また後でじっくり見て決めような」


「うん!ありがとうパパ!」


 俺が買ってあげると言うと、まるちゃんが喜んでくれた。元々何か買ってあげる予定だったので、想定外なことは何もない。


「……ありがとう。信護君」


「気にすんなよ。元々買ってあげるつもりだったし」


「ねえねえ!早く乗りに行こ!」


 美保の礼に対して、俺は思っていたままを言う。その後、まるちゃんが早く乗りたいと急かしてきた。


 先程までお土産に目を奪われていたのに、またロープウェイへと興味が移っている。そんな子供らしいまるちゃんに、俺と美保から笑みがこぼれた。

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