第12話

 まるちゃんとの再会を終えた俺は、療心学園から出て帰路についていた。そんな俺の隣には、俺の妻(仮)になった斎藤がいる。


 なぜ斎藤が俺に付いて来ているのかというと、俺が帰る時に斎藤も外に出る用があったらしく、一緒に療心学園から出たのだ。ちなみにその時、まるちゃんと長井さんが見送ってくれたのだが、長井さんはめちゃくちゃニヤニヤしていたことだけいっておこう。


 そして、向かう方向も同じだったので、こうして並んで歩いているというわけだ。俺としても、斎藤には聞きたいことがあったので、この状況は願ったり叶ったりだ。


「……なあ斎藤。ちょっといいか?」


「う、うん。いいけど……。どうしたの?」


 俺は療心学園を出て少し歩いてから、斎藤に話しかけた。ここまでくれば、療心学園の人はいないはずだ。


「その、斎藤ってさ、彼氏いるんじゃないのか……?」


「えっ……!?」


 俺がそう聞くと、斎藤は驚いて俺の方を向いてきた。この反応からして、間違いなく斎藤には彼氏がいるのだろう。


 俺にはそれを前提にした上で、斎藤に聞きたいことがあるのだ。具体的には、まるちゃん関係のことである。


「やっぱりいるんだな。その上で聞きたいんだが、パパ、ママとか呼ばれて大丈夫なのか……?」


「う、うーん……。まあ、知られなければ、大丈夫かな……?」


「えっ。そ、それでいいのか?」


 まさかの返しに、俺は驚いてしまう。だ、だってそれ、浮気はバレなきゃセーフみたいな感じじゃ……?


「ま、まあ、私はまだ好きかどうか分からない状態で付き合ってる、みたいな感じだし……」


「そ、そうなのか……。ならなんで、付き合おうと思ったんだ?」


「……彼、どこかで会った気がするの。名前を聞いた時も、聞いたことがある気がして……」


「そ、それだけで……?」


 俺がそう斎藤に尋ねると、斎藤は首を横に振った。どうやら、それだけで付き合うことにしたわけではないようだ。


「ううん。その、彼から告白してきたんだけど、これから知っていきたいって返したの。そしたら、付き合ってることになっちゃって……。嫌、ってわけではないんだけ

 どね……」


「な、なるほど……?ま、まあつまり、バレなければいいんだな?」


 これ以上聞いても分からないなと思った俺は、ここで話をぶった切る。思ったよりもややこしそうだし、これ以上踏み込むべきではないと思ったからだ。


「う、うん。それより、小田君こそ大丈夫なの?パパ、ママって呼ばれて」


「おう。何の問題もねえよ。彼女もいないし」


「彼女……?……あっ」


「うん?どうした?」


 俺がそう答えると、斎藤が何かを思い出したかのような反応をした。それが気になった俺は、斎藤に聞き返す。


「な、なんでもないよ!絶対、バレないようにしなきゃ……。学校で、この話をするのは禁止ね!」


「お、おう。当たり前だ」


 斎藤はそのことを言うことなく、話をそらしてきた。俺は別に追及するつもりはなかったので、その話にのっておく。


「じゃあ、これからよろしくね?小田君。まるちゃんのパパとして」


「ああ。よろしく斎藤。まるちゃんのママとして。これで俺たちは、偽の家族だ」


 俺と斎藤は握手をして、まるちゃんのために親になることを確認し合う。ここから、俺、斎藤、まるちゃんの、疑似家族関係が始まったのだった。

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