第10話
「パ、パパって、俺が……!?」
ようやく少し落ち着けた俺は、まるちゃんにそう聞き返す。その返しに、まるちゃんは満面の笑みで頷いてきた。
「うん!ママがね、そう言ってたの!」
「は?さ、斎藤が……!?」
「ま、まるちゃん!ち、違うの小田君!そういう意味じゃなくて……!」
斎藤がまるちゃんに、俺がパパだったらいいって言ってたのか……?それって、そういう……!?
だがもし、斎藤がママ、妻だったとしたら――
『あ、お帰りなさい。信護君』
『お帰り~!パパ~!』
『ああ。ただいま。美保、まる』
『先に、ご飯にしよっか。お風呂はその後でいい?』
『ご飯ご飯~!』
『そうだな。いたただくよ』
『ねえねえパパ!お風呂、皆で入ろ!ね、ママ!」
『ふふっ。そうだね。一緒に入ろっか。信護君も、それでいいよね?』
『ああ。もちろん――』
「……だ君。小田君……。小田君!」
「うおっ!な、なんだ?み……斎藤」
急に声をかけられた俺は驚いて、斎藤に返事をする。どうやら、考えすぎてしまっていたようだ。
「なんだじゃないよ。急にボーっとして。どうしたの?ちゃんと説明したいのに……」
「え?あっ……。い、いや、なんでも、ない……」
斎藤にそう問われて、俺は斎藤から視線を逸らしてそう返した。今は、斎藤の顔を直視することができない。恥ずかしすぎて。
さっきまでの妄想は、墓まで持って行こう……。言うと間違いなく引かれるし、俺が恥ずかしすぎて耐えられない。
「あの、あのね、説明させてほしいの。その、私がママだから、小田君にパパになってもらいたいって言ったわけじゃなくて……。捨てるようなパパだったら、拾ってくれた優しい人がパパならよかったね、って言ったの」
「な、なるほど……。な、なら、なんで斎藤がママに……?」
斎藤のその説明に対して、俺はまだ動揺しながらではあるが、何とか会話をする。そんな俺の疑問に対して、斎藤がたどたどしくではあるが答えてくれる。
「そ、その……。ここにいる間は、私のことを家族だと思ってくれていいよって言ったら、ママって呼んでくれて……。嬉しくて、そのまま……」
「お、おう。よく分かった……」
つまり、まるちゃんが俺をパパ、斎藤をママと呼んでいるのは、別に恋愛的な要素はなくあくまでも偶然ということだ。少しでも考えてしまった自分を、殴ってやりたい。
「むー……!えいっ!」
すると、まるちゃんが急に俺と斎藤をまとめてギュッとしてきた。必然的に、俺と斎藤の距離が縮まる。具体的には肩と肩が当たるぐらいに。
その事実に、俺は顔を少し赤くしてしまった。さっきのことが尾を引いて、恥ずかしさが出てしまう。
「ちょっ、待っ……!」
「ま、まるちゃん!?」
俺と斎藤はそれぞれ驚いて、まるちゃんに向かって声を発する。だが、まるちゃんは俺たちに不満げな顔を向けてきていた。
「まるを、放っておかないで……。一人に、しないで……!」
「「っ……!?」」
まるちゃんから、そんな悲痛な声が出てきた。俺と斎藤は、まるちゃんのそんな言葉に息を吞む。
まるちゃんに、こんな顔をしてほしくない。させてはいけない。
そう思ったのは斎藤も同じだったのか俺たちはほぼ同時にまるちゃんの頭に手を伸ばしていた。そして、二人でまるちゃんの頭を撫で始める。
「ごめんな、まるちゃん。大丈夫。俺はここにいるよ」
「ごめんね、まるちゃん。私も、ここにいるからね」
「うん……!パパ……!ママ……!」
まるちゃんは撫でられながら、俺と斎藤の腕の中でそう呼びながら泣き始めた。一人になるのが、置いておかれるのがトラウマになってしまっているのだろうか。
それよりも、今はまるちゃんを安心させなければ。まるちゃんを不安にさせてしまったのだから。
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