第9話


「まるちゃんは、この部屋にいるはずだよ。開けるね」


「ああ。頼む」


 あれから少しの間歩いていた俺たちだったが、斎藤がある扉の前で立ち止まった。そして、俺にまるちゃんがいる部屋がここだと伝えてくれる。


 それに俺が頷くと、斎藤はすぐにその扉を開く。斎藤が先に部屋の中に入り、俺はそれに続いた。


「まるちゃん?いる?」


「あ!ママ!お帰り~!」


「ふふっ。うん。ただいま」


 ……ママ?今、まるちゃん、斎藤のこと、ママって言わなかったか?


 ま、まあ、本当のママってわけではないだろう。年齢もあるがなりより、斎藤が自分の子供を捨てるなんて真似するはずがない。


 しかし、斎藤がママとは……。いや、案外似合っているのではないだろうか。少なくとも斎藤は、反応を見る限りではまんざらでもないようだ。


「あのねまるちゃん。今日ね、まるちゃんを助けてくれたお兄ちゃんが来てくれたんだよ?ほら」


 斎藤はそう言うと、視線を後ろにいる俺の方へと向けてきた。すると、まるちゃんも俺に気付いてくれる。


「あー!あの時のお兄ちゃん!」


「や、やあ。久しぶり、でいいのかな?まるちゃん」


「うん!来てくれたんだ~!」


 俺と斎藤はまるちゃんの所へと近づいて行き、そのまままるちゃんの近くで腰を下ろす。すると、まるちゃんが俺に抱き着いてきた。


「うおっ!ど、どうしたんだ?」


「えへへ!また会えてうれしいの!」


「……そっか。俺も、まるちゃんが無事で良かったよ」


 急に抱き着かれたことにはびっくりしたが、そんなに喜んでくれると俺も嬉しくなる。そして何より、本当に無事でよかった。


 あの後まるちゃんがどうなったのか、本当に気になっていたのだ。まだ両親には会えていないと思うが、生活できる場所が見つかっていて本当に良かったと思う。


「よかったね。まるちゃん。言ってたお兄ちゃんに会えて。ほら、お礼言いたいんでしょ?」


「うん!ほんとにありがとう!」


「いや、当然のことをしただけだから。それに、趣味みたいなものだし」


 本当に、何か特別なことをしたつもりはない。けど、そういう風に感謝されるのは本当に嬉しく思う。


「あ!そうだ!ねえねえお兄ちゃん!」


「ん?なんだ?」


 すると、まるちゃんが何かを思い出したのか、俺と斎藤をそれぞれ見てから俺に声をかけてきた。俺は何かあるのかと思いながら、その続きを促す。


「あのね!パパになってもらっていい!?」


「……え?」


 急にそう言われた俺は、言われた意味が分からずに一瞬身体が固まってしまう。ちらりと隣にいる斎藤を見ると、目を見開いて驚いていた。

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