第6話
歩き始めた俺たちだったが、俺と高畑、伊野宮が並んで前に。勝と市菜が並んで後ろにいるという感じになっていた。
歩き始めてから少したったが、俺たちの間に会話はない。先程のことが、尾を引いているのだろうか。
「あー……。その、高畑。大丈夫か?ちゃんと傘の中に入れてるか?」
「えっ!?う、うんっ。だ、大丈夫!」
急に声をかけられて驚いたのか、高畑はビクリと体を震わせてから顔を赤くしながらそう答えた。すると、俺の隣に立って歩いていた伊野宮が、俺の傘と伊野宮の傘が当たる寸前まで近づいてくる。
「ど、どうした?伊野宮」
「そ、その、先輩。本当にすいませんでした……」
「だ、だからもういいって。気にすんなよ」
「はい……」
伊野宮は本当に反省してくれているようだ。俺ももう気にしていないから伊野宮もそれでいいのだが、伊野宮自身はそういかないようだ。
頷いたはいいものの、まだ引きずっているようだ。また、空気が重くなってしまう。
「おい信護ー。なんか最近あったことでできる話はねえか?空気重すぎて耐えれねえわー」
そう思った時、勝がそう声をかけてくれた。こういう風に空気を和ませられるところが、勝のいいところだ。
「あ、ああ。あるっちゃあるが……」
俺は昨日の捨てられた幼女、まるちゃんを拾ったことを思い出す。今まで色んな人を助けてきたが、捨てられた幼女は初めてだったからだ。
「お、いいね。話してくれよ」
「……分かったよ」
正直、全て話すのは気が引ける。犯罪臭がある話だし、言った言葉が少々恥ずかしいこともあるからだ。
だが、俺が感じる恥ずかしさなど、この状況と比べれば些細なものだ。現に今している相合傘だって恥ずかしいことには変わりないが、これで高畑が助かるなら安い。
「昨日の話なんだが、道端で幼女を拾ったんだ」
「「「「えっ……!?」」」」
俺が端的に事実だけ伝えると、全員がそう言って驚き俺から離れるように数歩下がった。……なんだろう。とってもデジャヴなんだが……。
そう。俺がまるちゃんの頭を撫でているところを見た時の父さんの反応と、とても似ている。
「し、信護……。ま、まさか、ロリコ――」
「違う!そういうことじゃなくて――」
「お兄ちゃん……。前々から怪しいとは思ってたけど……」
「いやなんでだよ!何か怪しいところでもあったか!?」
俺がそう反論すると、市菜と勝は顔を見合わせてから、俺から目を逸らして視線が合わないようにした。なんだよその反応は!?本当に思うところがあったのか!?
「せ、先輩……?」
「お、小田……?」
そう反応した伊野宮と高畑はまた、俺からそれぞれ一歩ずつ離れた。二人とも、目を潤めさせて俺を見ている。
本当に勘違いされているみたいだ。冗談じゃない!このまま勘違いされたままじゃ駄目だ!
「ち、違うぞ!俺はただ、捨てられて困ってた幼女を警察に届けただけだ!」
「え?あっ……。そ、そうですよね!」
「ま、まあ、そうするのは小田らしいけど……」
一応、二人は納得してくれたらしく、元の位置まで戻ってきてくれる。勝と市菜も、すでに元の近さまで戻っており、小さい笑みを浮かべていた。
「なんだ。また人助けかよ」
「お兄ちゃんの人助けエピソードは多いですけど、今までになかったパターンですね」
「なんだよパターンって……」
「色々あるんですー。ね、勝先輩?」
「まあなー」
俺の話した人助けのエピソードを、パターンとして何個かに分けているのだろうか。それなら一体、どんな風に分けているのだろうか。分けられるような感じではないと思うんだが……。
というより、市菜だけじゃなくて、勝も一緒にやってるのか?思ってた以上に仲がいいんだな。この二人。
「あ、お兄ちゃん。もう家着くよ」
「ああ。そうだな」
市菜の言う通り、小田家の家がもう目の前にあった。俺は傘の持ち手を高畑に差し出す。
「この傘、貸すよ。今度返してくれればいいから」
「えっ。い、いいの?」
「ああ。大丈夫だから。それで濡れずに帰ってくれ」
俺がそう言って差し出した傘の持ち手を、高畑は戸惑いつつも受け取ってくれた。そして少し頬を赤く染めながらお礼を言ってくる。
「……あ、ありがと」
「おう。じゃあ、またな。高畑。勝に伊野宮も」
「さよならです!皆さん!」
「うん。また」
「おーう。またなー」
「はい。また会いましょう」
俺たちは各々別れを言い合って、俺の家の前で別れる。勝たちは駅へ、俺と市菜は自分たちの家の中へと歩き出した。
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