第7話

 まるちゃんを拾ってから、数週間が過ぎた日曜日。その昼過ぎの今、ある児童養護施設に向かって歩いている。


 昨日夕飯を食べている時に父さんから言われたのだ。まるちゃんが、お前に会いたがっているらしい、と。


 その時に、父さんからまるちゃんが預けられている児童養護施設の住所と名前を教えてもらった。住所は岐阜県岐阜市で、俺の家から歩いても行けるほどの近さ。名前は、療心学園りょうしんがくえんというらしい。


 療心学園があるのは、俺が通っている学校がある方向とは真逆で、俺の家からだと駅を通り過ぎていくことになる。俺はもうその駅を通り抜け、教えられた住所のすぐ近くまで来ていた。


「……ここか」


 療心学園の大きさは想像以上で、グラウンドもあった。そのグラウンドでは、遊んでいる子供たちに大人もいる。


 俺はそんな療心学園の門の傍まで行って、インターホンを鳴らした。ピンポーンと音が鳴り、ガチャリと音が鳴りインターホンから女性の声が聞こえてくる。


『はい。児童養護施設療心学園です』


「あ、すいません。本日伺う連絡をしました、小田信護なんですけど……」


『あ、まるちゃんの。分かりました。少々お待ちください』


 そう言われてから、インターホンが切られる。すると、療心学園のドアが開き、そこから茶色い髪をしたポニーテールの若い女性が出てきた。


「お待たせしました。どうぞこちらへ」


「あ、ありがとうございます」


 女性の案内に従い、療心学園の敷地内へと入っていく。女性の手によってドアが開かれ、俺は療心学園の建物へと足を踏み入れた。


「お、お邪魔します……」


「靴を脱いだら、客員用のスリッパに履き替えてください。そろそろ、グラウンドに出ていた子たちも帰ってくると思いますので……」


 そう言われて履き替えた矢先、またドアが開いてそこから子供たちが入ってきた。いや、帰ってきたと言うのが正しいだろうか。


「ただいまー!あれ?この人誰ー?」


 先頭にいた少年が俺にそう問いかけたのを筆頭に、後ろの子供たちからも、誰ー?という声が次々とあがる。俺がそんな子供たちに押されていると、女性が助け船を出してくれた。


「この人は、まるちゃんを助けてくれた人だよー。まるちゃんがよく話してるでしょ?」


「「「「えー!?」」」」


 子供たちが驚いて、そんな大声を出した。その大声に驚いた俺であったが、子供らしい反応に少し笑ってしまう。


「どうしたの?そんな大きい声出して?」


 すると、ドアの向こうから女の子の声が聞こえてきた。どうやら、まだ中に入れていない人がいたようだ。


 しかし、今の声。なんか、めっちゃ聞き覚えがあるんだよな……。なんなら、ほぼ毎日聞いているような……。


「あ、姉ちゃん!あのね、まるちゃんが話してた、助けてくれた人が来てくれたんだって!」


「そうなの?」


 そう反応した女の子が、ドアから姿を現した。その髪は栗色で長く、容姿端麗。それでいてやわらかい雰囲気がある。


 俺は知っている。この女の子を。中学から、知っている。現在はクラスメートで、一緒に昼飯を食べていて、よく話すようになった。


 その、同級生の名前は――


「斎、藤……?」


「えっ……。お、小田、君……?」


 斎藤美保だ。

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