第3話

 キーンコーンカーンコーンと、チャイムがなった。四時間目の終わりの合図だ。生徒たちは各々の友達の元に行って弁当を広げたり、食堂に向かったりしている。


 対して俺は、その場で弁当を開いていた。ここで待っていれば、親友が来てくれるのだ。


「よっ!信護!飯にしようぜ!」


「おうまさる


 来てくれる親友とは、中学一年で知り合ってから高校二年の今に至るまで同じクラスで、ずっと友達な柴田しばたまさるだ。他にも遊ぶメンバーはいるのだが、俺と勝以外は食堂なのである。


 勝は俺の前の椅子を借りて座り、俺の机の上に弁当を広げた。これもいつものことだ。


「しかし、もう降ってきたな。雨」


「ああ。傘、持ってきて正解だった」


 勝の言うように、外ではすでに大粒の雨が降っている。傘を持ってきていなければ、びしょびしょになりながら帰るところだった。


「うわ!めっちゃ降ってんじゃん!どうしよ~!アタシ、折り畳み傘しか持ってきてないんですけど!」


「え?マジかよ高畑。大丈夫か?」


 俺の隣の席に座る高畑たかはた心南みなが長く伸びた自らの金髪をいじりながらそう言った。その愚痴に対して、勝が言葉を返す。


 これも、なぜか恒例になっている。高校二年になってから、俺の隣に座る高畑と、そのグループの面々と一緒に食べることになっていた。


「ねえ照花てるか?折り畳み傘じゃ、雨防ぎきれないかなぁ?」


「うん!ちょっと厳しいかもしんないね!」


「うわマジ!?美保みほぉ~!」


 銀髪で肩までのぐらいの長さの髪をした羽木はぎ照花てるかの返答にショックを受けた高畑は、斎藤さいとう美保みほに名前を呼びながら抱き着いた。斎藤はそんな高畑を受け止め、高畑の頭を撫で始める。


「よしよし。じゃあ、大きい傘を持ってる人に入れてもらえばいいんじゃないかな?」


「なら、信護じゃね?この中だったら」


「は?」


 勝がニヤつきながらそう言ってきたので、俺は飯を進める手を止めて反応する。高畑はすぐに斎藤から離れて顔をこちらに向けてきた。ほら、高畑も嫌がってるだろ。


「そうだね。小田君だね」


「うん!小田君以外ありえないね!」


「ちょ、ちょっと待てよ!流石に俺以外いないなんてことないだろ!」


 斎藤と羽木の勢いに呑まれそうになりながらも、俺はきっちりと反論した。このままだと、高畑と相合傘で帰ることになる。


 それは駄目だ。俺からすれば恥ずかしいことこの上ないし、高畑も俺との相合傘など望んでいないだろう。


 それに、俺は家が近所だが、高畑たちは電車通学だ。駅まで行かなければならない。


「おいおい信護。困ってるやつを放っておくのか?お前の信念に背くんじゃねえの?」


「うっ……」


 そう言われると、俺は弱い。父さんの影響もあるが、俺は困っている人を放っておけないのだ。高畑が本当に困っているなら、手を差し伸べたい。


「……高畑は、それでいいのか?」


「……え?あっ、うん!あ、当たり前じゃん!」


「分かった。なら、送っていく。妹も一緒になるかもだが、いいか?」


「ぜ、全っ然大丈夫!あ、ありがと!」


 高畑は、顔を背けながらそうお礼を言ってきた。こんな風に礼を言われると、とても嬉しく思える。


 そんな俺と高畑のやり取りを見ていた勝たちは、なぜかグータッチをしていた。まあ、何はともあれ話はまとまったのだから、昼食に戻るとしよう。


 俺は視線を高畑たちから自らの弁当に戻し、食べかけの弁当を全て平らげるために箸を再び動かし始めた。

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