第2話


「おはよう」


「あ、おはよう信護」


 二階にある自分の部屋から階段で降りてきた俺は、すでにリビングにいた母さんに挨拶をした。母さんも、俺の挨拶にきちんと返してくれる。


「あれ?市菜いちなはまだ起きてないのか?」


「そうなの。信護、悪いけど市菜を起こしに行ってくれない?その間に朝ごはんを準備しておくから」


「了解」


 俺はさっき降りたばかりの階段を上り、俺の部屋の向かいにある妹の市菜の部屋へと向かった。市菜の部屋の前に着いた俺は、そのドアをノックする。


「おーい。起きてるかー?市菜ー」


「うーん……。寝てまーす……」


「いや起きてんじゃねえか。早く起きないと、学校遅れるぞ?」


 俺はそう言いながら、躊躇いなくそのドアを開ける。するとそこには、未だベッドの中でくるまっている市菜がいた。


「えー……。まだいいじゃん」


「……市菜。時間ちゃんと見て言ってるか?それ」


「え?あ……。もう、起きる!起きるから出てってよね!」


「はいはい。さっさとしろよー」


「分かってるー!」


 俺が部屋から出て行って声をかけると、市菜は声を張り上げてそう返してきた。その返事を聞いた俺は、よしと頷いてからまた階段を降りる。


 リビングに戻ると、すでに母さんが朝食の準備を済ませていた。俺はいつも通り椅子に座り、テレビをリモコンでつける。


『次のニュースです。昨夜11時頃、岐阜県各務原市にある公園で、女性が血を流して倒れているのが見つかり、死亡が確認されました。警察は他殺として捜査を進めており、犯人は現在も分かっていないとのことです』


「まだ、分かってないのね」


「うん……。父さん、これの捜査してるんだろ?」


「ええ。多分ね」


 昨夜、この事件があったので、父さんからまるちゃんのことを聞くことができなかった。まるちゃんがあれからどうなったのか、俺は全く知らないので不安で仕方がない。


『殺害されたのは、岐阜県岐阜市に住んでいた女性、竹田たけだ紗耶香さやかさんで、発見されたときには死後2時間はたっていたということです。現場に凶器と思われるものがなかったことから、警察は他殺として捜査しています。犯人は現在も分かっていません』


「おはよー……。うわー、まだ分かってないんだ、犯人」


「ああ。らしいぞ。それより、早く座れ。飯が冷めるだろ」


「はーい」


 俺たち家族は、できるだけそろって飯を食べることを心がけている。これは、父さんと母さんが結婚した当初から決めていたことらしい。


 父さんは警察という、命の危険がある仕事をしている。だからこそ、家族の時間を大切にしたいという思いから、この決まりができたそうだ。


「「「いただきます」」」


 俺と市菜と母さんは、そろってそう言って朝食をとる。食べながら、ニュースの続きである天気予報を見ていた。


「えー!?今日雨降るの!?」


「らしいな。傘持って行かねえと」


「そうね。二人とも、学校に遅れないようにね。お弁当、そこに置いてるから」


「「やばっ!」」


 天気予報を見ながらのんびり食べている時間はなさそうだ。俺と市菜は朝食をすぐに食べ終え、それぞれ弁当を取って高校と中学に行く準備をする。


 俺は市菜より一足早く終え、玄関で待つ。俺たち兄妹は中高一貫校の同じ中高に通っており、一緒に歩いて行くのが日課となっていた。


「まだか市菜ー!」


「もう行くから、ちょっと待ってー!」


 俺が市菜に声をかけると、そう返事が返ってきた。そしてその言葉通り、市菜はすぐに俺が待つ玄関に来た。母さんを連れて。


「じゃあ、いってらっしゃい。二人とも。気を付けてね」


「ああ。気を付けるよ。なあ市菜?」


「うん!それに、お兄ちゃんが守ってくれるもんね!」


 そんな市菜の言葉に、俺は苦笑して母さんは微笑んだ。昔、市菜にそう言ったことがある。それを、市菜はずっと覚えているのだ。


 だが、今そんなことを思い出している時間はない。早くしないと、遅刻してしまう。


「ほら、もう行くぞ市菜。マジで遅刻するから」


「分かってるよー。じゃあね、お母さん!」


「「行ってきます!」」


 俺と市菜がそう言って玄関から外に行くと、母さんはそれを笑顔で見送ってくれた。俺と市菜は、いつもより少し早歩きで学校へと向かって歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る