樹の中

 寿江はどうやら老いた体の巧い扱いを忘れたみたいで、小さな怪我と故障を重ねて、これをかばって歩いて腰を傷めた。出歩かなくなって少しすると、循環系に支障が出た。窓から外を見てボーとしている時間が増えた。


 誰か庭に入ってきたと寿江が言う。何の用で来たのかな、と問うと、男の人たちが樹の枝を刈ってくれたと言う。先日に庭の手入れをお願いした職人さんの夢でも見たのだろう、と誠司は思った。ところが、聞けばまだ帰らずにいると言う。

「樹の中にいる」

 寿江は庭の隅のヤマモモの高いあたりを指差す。あの枝に登っているなら……。

「小柄な人、なのかな」

「そう」と、寿江が右手の指を広げてみせる。「このくらい?」

「小さな人だな」

「そう……犬もいる」

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